街に帰ってくる
街に戻ってくると思った以上に賑わっていた。時間帯が夕方と言うことも相まって、買い物に来ている人で敷き詰められていた。
「人多いねー!」
「そうだな……」
ミネアは呑気そうに答えるが、俺はめちゃくちゃ疲れていた。もちろんクエストで疲れたわけではない。
「どうかした?」
「ミネアは気付いてないのか?」
「うん?」
この子は天然なのだろうか。
周りの若い男たちに見られていても気づかないとは。
(やっぱりミネアは人の目を引くな。予想していた通りだ)
ミネアは十人見れば、十人全員が美人と言うであろうほどの美貌を持っている。
それに加えて今はクエスト帰りのため程よく汗をかいて、白の中にうっすらと緑色が透けて見えている。
「ちょっと急ごうか」
「え? うん。分かった」
これ以上精神攻撃を喰らいたくないしささっとギルドに行こう。
そう思って、俺はキョトンとしているミネアの手を引っ張ってギルドに戻った。
「ただいまー」
「ただいまー」
「おお、帰ったかのう」
ギルドに戻ると、マスターはサクサクとクッキーを食べながら返事をしてきた。
「……何食べてるんですか?」
「クッキーじゃよ。お主もいるか?」
「要りませんよ」
「私は要るー」
ミネアはそう言ってクッキーを一つ貰っていた。
マスターも一度食べるのを辞めて話をしてきた。
「で、どうじゃったかの? 初めてのクエストは」
「はい。結構楽しかったですね。ミネアもとても頼もしかったから」
「それは良かったの。どうじゃ? これでこのギルドに入る気になったか?」
俺が好印象の感想を言うと、マスターはそう訊いてきた。
「無理やり入れてるような気がしましたけど」
「今まではお試しじゃよ。これで入るって言ったらこの国を出て行く。それで良いのじゃな?」
もう勝手に入ってるものだと思ってたけど、ちゃんと考えていたのかな。
それにしても、これが最後の質問なのだろう。これに断れば、俺はもうこの人らに会うことはないだろう。
しかし、訊かれるまでもない。答えは決まっている。
「もちろん。これから楽しくなりそうですし」
「よし。これでマリウスは正式に我がギルドに加入じゃの」
俺はこのギルドに正式に加入が決まった。
「マリウスが入ってくれたら百人力だよー」
話を横で聞いていたミネアは、終わったと同時に話に入ってきた。
「そう言う話も含めて、今日はパーティーじゃな。もうすぐでこの街も出るんじゃし、良い物は買い占めをしといておきたいからの」
「パーティーの時にはいろんな話してもらいますからね」
俺の言葉を無視して、マスターはパーティーの食べ物などを買いに、姿を変えて街へと向かった。
「いやー、早かったね。こういう時の行動は早いんだよね」
「ああ……。同感」
そう話して二人で顔を見合わせて笑っていた。
***
「マスターが帰ってくるまで何しよっか」
「そうだな……。ミネアのことを教えてもらいたいな。俺の自己紹介だけで終わったし」
俺の話だけで終わってしまったからな。
「うん。そうだね。って言ってもマリウスほど凄い事はしてないけど」
ミネアはそうやって一つ前置きを入れた後、話し始めた。
「私は覚えてないんだけどね。小さい時に捨てられたらしいの」
「えっ⁉︎」
「あはは……。やっぱりそういう反応になるよね。マスターが拾ってくれなかったら私死んでたと思うんだよ」
笑顔でとスラスラと言葉を紡いでいく。
よくそんな話を笑いながらできるな。
……いや、これも彼女なりの気遣いなのかもしれない。雰囲気が重くならないように。
「それから私はマスターの所で色々魔法を教わりながら、健やかに育っていったのですよ」
ミネアは物語を話すような口調で最後を締めた。
やっぱり、捨てられた云々の話はできるだけ触れない方が良いだろうか。
それに気遣いながら話しかけた。
「どうして捨てられたんだ?」
……馬鹿なのか俺は。言わない様にって思ってたつもりだったのに。
大丈夫だろうかと、恐る恐るミネアの方を見てみると、顎に人差し指を置いて考える仕草を見せていた。
別に変わらない。普段通りの様子だった。
「何だろうね。マスターの予想では私に魔力量が多すぎるせいかも、みたいなことは言ってたけど」
「なるほど。それでめちゃくちゃ弱い魔法でもあそこまで強かったわけか」
本気で鍛えれば、俺ですら勝てるかどうか分からないな。
「私の魔法って弱いんだ」
ミネアは落ち込んだ様子を見せた。こっちの方が駄目なのか。
でも、現実は先に行った方がいいだろう。
「魔力のごり押しって感じがするのは確かだよ。でも、だからこそ、強い魔法を覚えれば最強になれるよ」
「本当⁉︎」
「ああ。本当だとも」
目を大きく開いて体を前のめりにさせて言ってくるミネアに、当たらない様に一歩下がって肯定する。
「それじゃあ今度マリウスに魔法の使い方を教えてもらおうかな」
「良いけど。マスターの方がいいんじゃないか。俺より強いだろうし」
「うーん……。そうかも知れないよ。でもね」
「でも?」
ミネアは不満がありそうな様子で言葉を付け加えてきた。
「マスターって放任主義だから教えてくれないんだよ」
「ああ……」
すっかり忘れていた。俺がギルド入った時もそうだったもんな。
「まぁ、そういう事なら全然いいか」
ミネアの成長も見てみたいし。
「本当!」
「ああ」
「やったー!」
ミネアは手を挙げて喜びを体で表現していた。
喜んでもらえたみたいで良かったよ。
「ただいまー」
「あ、マスター。おかえりー」
「早かったですね」
そこまで時間は経ってないだろうにマスターが帰ってきた。
手にはたくさんの荷物を持っている。よくそんな短時間で集めれたものだ。
「儂の力にかかればこれくらい楽勝じゃよ。——そんな事より歓迎パーティーじゃ」
「わーい! 私お肉食べたい!」
こうしてパーティーが始まった。
たった三人のパーティーだったが、今までのどのパーティよりも思い出に残る様な、そんなパーティーだった。
そんな楽しいパーティーは夜更けまで続いて、いつの間にか、全員ギルドで眠りについていた。
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