第4話 孤児院経営
「……」
宿で1泊した早朝、エクムントは胸の中にしまっていたロケットペンダントを取り出す。中を開けると銀色の髪と黄金色の瞳をした女のエルフの絵が入れられていた。
絵だとしても彼女は息をのむほど美しい女性だった。
「……エルフィーナ」
エクムントはかつての妻の名をぼそりとつぶやく。今の彼がいるのも、彼女のおかげだ。
(ここは確かアーデルハイド孤児院があったな。顔を出してみるか)
病に伏した先代の王を救った翌日、エクムントは小切手をもって孤児院に顔を出す事にした。王都から1時間歩いて都郊外の自然の残る土地、そこに目的の場所はあった。
その孤児院は手入れが行き届いていて細部まできれいに清掃されていて清潔な場所で、子供たちの声がそこかしこで聞こえる。かなり良い環境で子供たちはすくすくと育っていた。
「君、アーデルハイド院長を呼んできてくれないか? 「エクムント=バルミングが来た」と言えばわかるはずだよ」
エクムントは職員であろう子供たちの世話をしていた青年に話しかける。
「? は、はい分かりました。少々お待ちいただけますか?」
そう言い残して彼は院長室へと向かう。中には中年の女が執務をしていた。
「院長先生、エクムント=バルミングなる冒険者らしい人が先生を呼んでいるのですがいかがいたしましょうか? 不審者ではなさそうなのですが……」
「!! エクムントさんが!? 分かったわ。今すぐ行くと伝えてちょうだい」
仕事を中断し、彼のもとへと向かった。
「エクムントさん。通信で話は何度かしてるけど顔を合わせて話をするのは久しぶりね」
「そうだな。アーデルハイド、孤児院の経営は上手くいってるか? まぁこの様子だと順調だとは思うがな」
「今のところはね。国王陛下による補助金が増えて助かってるわ。もちろんあなたからの寄付金も従業員の給料や施設の維持費に使ってるわ」
エクムントはここを含めて3つの孤児院に多額の寄付を納めて経営を陰から支えている。クエストで稼いだ金の大半はこれに消えてしまうのだ。
「ねぇエクムントさん。旅が終わったら私のところに……」
「それは出来ない相談ですな。私は人生をかけて
それにあなたは結婚もして子供もいるじゃないですか。家庭の間に割って入るなんていう無粋な真似は到底出来ませんよ」
「相変わらずよね。噂話でしか聞いたことは無いけど、確か家族を殺したとは耳に入ってるわ。今のあなたを見てても到底信じられない話だけど」
「それは本当です。昔の私は数えきれない程の人を殺してきました。その罪は到底償いきれるものではありません」
「あなたは充分よくやってるわ。孤児院をここも含めて3つ出資してるんでしょ? それだけやればきっと神様も天国へ連れていってくれるわ」
「神様、ですか……」
エクムントは彼女の言葉を聞いて、少し黙る。
「あいにく私は神なんて信じていません。もしも神というのが本当に居るのなら、私のような大罪人は今すぐ裁きの炎に焼かれるべきなのに一向に来やしませんからね。
こうして1人の人間としてのうのうと呼吸をし、のうのうと食事を食べ、のうのうと水を飲み生きている。
それ自体が大間違いなほどの罪を犯しているのに何年もの間誰にも裁かれませんからね。神というのは人間が作ったまやかしでしょうな」
「その辺は相変わらずで変わらないよね。話したくなったら私のところに来てちょうだい。隠し事をするような仲じゃないんだし」
「そうですな。それとこれを受け取ってほしい。これで2ヶ月は持つだろう」
そう言ってエクムントは小切手を渡す。
「いつもすまないわね。助かってるわ」
「お金で子供の命や人生が救えるのなら安いですな。あまり立ち寄れなくて金しか渡していないのですまないと思ってはいるんですが」
「あなたが謝る事なんて何1つないわ。あなたからの寄付金はとても役に立ってるわよ」
「そうか。では私は
「あなたが来てくれるというのならいつでも歓迎するわ。待ってるからね」
そう言ってエクムントは再び旅の続きをすることにした。
目指す地はウイスキーで有名なイスターナ国。とりあえずそこの
【次回予告】
今度のクエストは気難しい職人の説得だった。知り合いを作るための話術に長けるエクムントの力はどこまで通用するだろうか?
第5話 「頑固職人の説得」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます