第18話 魅了スキル
酒場での話を聞いた翌朝、エクムントは城へと向かう。謁見の時間にはまだ若干早いのか城門は開いてはいなかった。彼は衛兵にたずねる。
「確かこの国は庶民でも国王陛下との謁見が出来ると聞いていたのですが……」
「ああそうだ。今日は朝から昼前まで誰でも謁見は可能だ……おっと、エリン様の準備が整ったようだから今から会えるぞ、入ってくれ。くれぐれも粗相の無いようにな」
城門を抜け、歩くことしばし。王の間へとたどり着く。
玉座に座っていたのは桃色のウェーブがかかった長い髪をした、若いというよりは「幼い」と言った方が正しい、玉座に座るのにはだいぶミスマッチな小柄な少女だった。
「私はエクムント=バルミングという一介の冒険者です。此度の謁見の場を設けさせていただき誠に感謝しています。ところで国王陛下は?」
「お父様とお母様は病に伏しています。病がうつる可能性がありますから面会は謝絶しています」
……嘘だ。エクムントからの質問を聞いた瞬間、わずかに彼女の目が泳いだのを彼は見逃さなかった。
「姫様、あと2日で毒竜の生け贄になるとお聞きいたしましたが……」
「大丈夫よ。私が犠牲になれば国民が助かるのなら喜んで生け贄になりましょう。国の姫君としてそう教えられてきたのですから」
これも「嘘」だし「虚勢」を張っている。エクムントは彼女のわずかなしぐさ、声のトーンからすぐに判断する。
(とはいえ、生け贄まであと2日だから時間が無いな……仕方ない、最後の手段だ)
彼の流儀からしたら時間をかけて話し合い信頼関係を築くのだが、あいにく彼女は後2日で生け贄にされる運命であり、時間がなかった。
エクムントは数年ぶりに産まれ持っているスキルを使う。自らの魔力を束ね、エリン向かって放出する。それを受けた彼女の瞳がとろんとした精気を失った物へと変わる。
「エリン様、その辺りを詳しくお聞かせいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「分かりました。詳しいお話をしますのでついてきてくれませんか?」
「承知しました」
エクムントは自分が姫君を操っているのを気づかれないように細心の注意を払いながら2人きりになれる場を作る。
2人はエリンの私室に入ると念のため鍵を閉めて誰も入れないようにする。そして詳しい話を聞き出した。
「ではあなたの本心をお教えください。これはお願いではありません、命令です」
エクムントがそう言うとエリンはポロポロと涙を流しながら話し出す。
「私……私、生け贄なんかになりたくない! お父様もお母様もあの
彼女は本心を漏らす。それは10歳の女の子らしい感情のおもむくままにまき散らした物だった。
「助けて……誰か助けてよ……もう嫌よこんなの。私何にも悪い事をしていないのに何でこんな目に……」
涙を流しながら彼女は助けを請う。それを黙って見捨てることなどできるわけがない。彼は話を続ける。
「ギルドに通達しないのはどういう事で?」
「無理よ! あの
「……私の知り合いに『1人』だけ倒せる『者』がいます。『彼女』を頼りましょう」
「い、いるの? あの
「ええ。います」
エクムントは「人脈の中でも最も強い者」を呼ぶことにした。
「でもその人をここまで呼ぶには時間がかかるだろうし……」
「私が召喚魔法で呼び出しますのですぐに来れます。その辺はご安心ください。大丈夫、必ずあなたをお救いいたします」
エクムントはそう誓うと魅了スキルを解き、茫然としている姫君がいる部屋を後にした。
部屋を出てすぐのところに、執事らしき男が立っていた。その表情は険しい物だった。
「盗み聞きという卑劣な手だが話は聞かせてもらったよ。お前、姫様の心を『こじ開けた』な? 魅了スキルで」
「……分かりますか。ご安心ください、悪用はしません」
エクムントよりも少し年上な執事が厳しい目をしながら彼を見つめる。
「どうだか。以前魅了スキルを乱用して散々暴れた最悪の
「……テッド=ヴラドですかな?」
テッド=ヴラド、その名前を聞いて彼はさらに怒り、いや殺意と言ってもいい位の感情がこもった声を発する。
「へぇ、知ってるんだな。なら話は早い。あの
今はどこをほっつき歩いているのか分からんが、正直この手でなぶり殺しにしても飽き足らない相手だよ」
憎悪を通り越し、殺意まで抱いているその目を見て、エクムントはハァッ。と息を吐いた。
「彼が原因で魅了スキルを持っている者は警戒されていると聞いています。繰り返しになりますが、私は彼のような事は誓ってでもしませんがね」
「まぁいいや。誰かは知らんがあの
最後にギリリ、とにらみつけて執事の男は去っていった。
【次回予告】
エクムントが持つ人材の中でも「最も強い」切り札……それは金色の瞳と銀色の髪を持つ女の子?
第19話 「嵐の前の静けさ」
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