第17話 イスターナの姫君 エリン
「……やっと着いたか」
春は終わり初夏の陽気になったころ、エクムントはついに当面の目標であるイスターナ国にたどり着いた。
久しぶりに
王都に着いたのは夕暮れというのもあって早速酒場へと向かう。
「いらっしゃい。アンタ旅の者かい?」
「ええまぁ。久しぶりにイスターナのウイスキーを飲みたくてやってきたんですよ」
「……悪いが酒を飲んだら早めに発った方が良いぜ。ちょっと今この国はワケアリなんでな」
「ワケアリですか……そういえばちらりと噂では聞いたことはありますな」
そういえば前に領主の息子の捜索で行動を共にしたアルフォンスが、イスターナ国は最近良い噂を聞かないと言ってたのをエクムントは思い出した。
そんな不穏な会話をしながらもエクムントはマスターにイスターナウイスキーの水割りを注文する。
「にしても姫様はかわいそうだよなぁ。まだ10歳だってのに……」
「何より弟のためにも仕方ないとはいえあまりにもかわいそうな話だよなぁ……」
ウイスキーの水割りを飲んでいると酒場に通う領民からこの国の姫君に関する噂が聞こえてくる。エクムントはその領民から話を聞くことにした。
「ちょっといいですかな? 確かこの国のエリン姫の話ですか? その話、もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
「アンタ旅の者かい? 教えてもいいけどタダで教えろと?」
「分かった。マスター、シングルを彼に」
エクムントはマスターに注文を飛ばす。ほどなくして話し相手はウイスキーのシングルをチビチビとやりながら話し出す。
「何でも1~2ヶ月程前に国の郊外に毒竜っていう邪竜が棲み付くようになって、そいつが「王女を生け贄として差し出せ」って言っているとの事だ。
しかもその日の期限が今から3日後だそうだ。国王陛下も王妃様も病に伏せて面会謝絶だというし、この国はどうなっちまうんだか……詳しい事は本人から直接聞いたらどうだ?」
「? 本人ですと? エリン姫と直々にあって話を聞いてくれ、と言いたいのですか?」
「ああ。イスターナ王家は今の代になってからは「開かれた王家」という方針を採っていて、時間は限られているが平民でも
明日の朝に城に行ってみるといい。多分できると思うぜ」
「なるほど……アドバイスありがとうございます」
エクムントは礼を言ってまた飲みかけの水割りを飲み始めた。
◇◇◇
「そ、そんな……」
イスターナ国の姫君、エリンは戦場の最後尾からそれを見ているだけしかできなかった。
イスターナ国の精衛兵たちは毒竜カシャフに毅然と立ち向かった。だがそれは「一方的な戦いにすら」ならなかった。
濃い紫色と緑色が混ざったような色をした、3階建ての家の大きさに匹敵するほどの大型の毒竜がまき散らす毒の息、それを浴びて兵士たちは次々と倒れ、死んでいく。
その光景はもはや「一方的な戦い」ではなく、それ以前に「『戦い』などという上等なモノですら」なかった。毒竜カシャフは何もしていなかった。
ただ息をしているだけで、人間たちは次々と死んでいった。
「まだだ……まだ終わりじゃない。イスターナ王家の王を舐めないでほしい!」
「何があってもあの子たちには手を出させはしないわ!」
それでも荒い息をしながら自ら兵を率いて戦いを仕掛けたイスターナ王と王妃は足をガクガクと言わせながらも立ち上がる。せめて傷1つくらいは……という強い意志だ。
自分の毒を食らっても生きている人間がいるとは見どころがあるな。毒竜はそう思い2人の頭を両手でわしづかみにする。
そして……ドラゴンの持つ莫大な魔力を流し込み、身体を『造り変え』た。
ドラゴンにはオスメスといった性別は無い。生殖器を持っていないのだ。ではどうやって数を増やすのかというと、他の生き物……特に人間を『造り変える』ことで数を増やす。
自らの膨大な魔力を流し込み、肉体を1から『造り変える』事で数を増やすのだ。
その際記憶や感情などは完全にドラゴンのそれに代わり、人間の頃の物は一切なくなってしまうのだという。
自分の実の両親が
「お父様ーーーー!! お母様ーーーー!! うわああああああ!!!!」
「ハッ!」
エリンが目覚めるとそこは自分のベッドの上。窓を見ると空が白んでもうすぐ日の出という時刻だった。あの悪夢を見ていた際に大量の汗をかいたのだろう、寝間着がしっとりと濡れていた。
「夢……か」
生け贄として捧げられるまで、あと2日。だがこの時のエリンは自分の人生が大きく変わるのを、まだ知らない。
【次回予告】
エリン姫が生け贄に捧げられるまであと2日……エクムントに時間は無い。奥の手を使うことにした。
第18話 「魅了スキル」
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