第21話 テッド=ヴラド
オレ様は『魅了スキル』を持ってこの世に生まれた。両親や兄はもちろんの事、メイドや庭師に至るまで全員オレ様の下僕だ!
アイツもコイツも全部オレ様の手のひらの上! 最強だ! 無敵だ! 神だ! オレ様は新世界の神になったんだ!
ヴラド王国家次男、テッド。彼は『王国の法律に基づいて合法的に』国王の権利を譲渡され、弱冠12歳で王の座に就いた。
だが人の上に立つための教育をまともに受けておらず、肩書上はテッドが15歳になるまで代理で国を治める側近も全員魅了スキルで操り人形。
遊んでばかりの贅沢三昧な日々を送るテッドにまともな統治などできるはずもなく、あっという間に国土は荒れていった。
それでも魅了スキルの効果は絶大で、誰も逆らうものはいなかった……テッドが自分の魅了スキルに気づいてそれを使うようになった7歳の時から数えて6~7年ほどまでは。
魅了スキルは『耐性』がつく。同じ人間を長期間魅了しているとだんだん利かなくなってくる。しかも魅了スキルで操られていた時、何をされたかも覚えているというオマケつき。
となると、魅了スキルによって操られた者たちは反撃してくるはず。だがそうはならなかった。
テッド自身、この魅了スキルの欠点に気づいていた。だから殺すことにしたのだ。まず最初は実の両親。そして血のつながった兄。彼は13歳の頃に親類を処刑したのだ。
テッドは彼らを「魅了スキルが効かなくなった」というのを「神様であるオレ様に逆らった罪」として『王国の法律に基づいて合法的に』ギロチン台へと送ったのだ。
オレ様は無敵だ! オレ様は最強だ! 神であろうと魅了して見せる! うやまえ! へつらえ! こびを入れろ! 新世界の神であるテッド様のお通りだ!
「……」
テッドに関する夢を見るのは、彼にとって最悪の目覚めだ。その日、神を信じていないエクムントは珍しく朝から教会へと足を運んだ。
かれこれ1時間ほど祈りを捧げ続ける彼を見て、神父が話しかけてきた。
「冒険者の方ですな。随分熱心に神に祈りを捧げておりますな」
「……あいにく私は信心深いわけではありません。むしろ逆で神なんて信じていません。
もしも神というのが本当に居るのなら、私のような大罪人は今すぐ裁きの炎に焼かれるべきなのに一向に来やしませんからね。
こうして1人の人間としてのうのうと呼吸をし、のうのうと食事を食べ、のうのうと水を飲み生きている。
それ自体が大間違いなほどの罪を犯しているのに何年もの間誰にも裁かれませんからね。神というのはおそらく人間が作ったまやかしでしょう。
それでもこうしてせめてもの
「……」
沈黙が辺りを支配する。
「旅の方、これだけは覚えていてください。神はあなたを愛しています。たとえこの世にあなたの味方が誰一人いなくなったとしても神は常にあなたの
神に祈れば現世で犯した罪は清められ、その魂は神の元へと導かれるでしょう。最も救いようの無い悪人にこそ、神が必要なのです」
「……これはご内密にしてほしいのですがよろしいでしょうか? 神に誓って誰にも口外しない、と」
「良いでしょう。お話しください」
エクムントは周りに自分たち2人以外に誰もいないことを確認したうえで語りだす。
「私は父を殺しました。母も殺しました。兄も殺しました。その他数えきれない程の人を殺し続けてきました。
どれも傲慢でおごり高ぶる自分の身を守るためという酷くワガママで身勝手な理由でです。犯した罪の大きさ、重さは、一生かけても償いきれるものではないのだと思います。
せめてもの罪滅ぼしとして身銭を切って3つの孤児院の経営を陰から支えていますし、世界を旅して困っている人の役に立つように仕事をしていますが、
その程度では到底犯した罪の深さを埋めるほどには至らないでしょう」
そう言った後、再び互いに黙った。
「……善行を積んでいますな。たいそう立派ではありませんか、3つの孤児院に出資しているとは!」
「私が今現在積んでいる善行なんて、殺してきた人数や迷惑をかけた人数に比べれば屁みたいなものですよ。一生涯かかっても到底償いきれるものではないですよ。
では私はここで失礼させていただきます。お話を聞いてくださってありがとうございました。神のご加護を」
そう言ってエクムントは教会を去った。
エクムントは本当のところは、救われたいのだろう。
だからせめてもの罪滅ぼしに孤児院に資金を提供し、世界を旅して人材を使い困っている人の役に立つようにしているが、彼の犯した罪の重さ……
具体的に言えば圧政の維持のために殺し続けてきた人間の数や、その人たちの周りにいる人にかけた迷惑の重さに比べたら、到底自分は救われるに値しない人間だろう。
今更善人ぶって罪滅ぼしだと善行を積んだところで何になる? 殺した人間はどんな能力でも生き返らせることなどできないというのに。
【次回予告】
エクムントは『捨てた故郷』へと戻ってくる。迎え入れてくれたのは、かつての妻だった。
第22話 「エルフィーナ」
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