第22話 エルフィーナ

 世界の歴史でも類を見ないほどの暗君あんくんとしてその名が挙がるテッド=ヴラド。


 彼が統治していた国土は今ではいくつかの貴族の領土あるいは小国の国土に分割され、統治されていた。


 その中の1つである『新生』ヴラド国。今ではテッドの元妻のエルフィーナが暮らしている国へと彼は『戻って』きた。




「この噴水は変わらないな」


 エクムントの父親が作ったという魔力を使わずに自然の力だけで動く噴水。若いころは地味でダサいと思っていた物もすっかり思い出の品となっていた。


 街を歩いていると歩くとたまたま外に出ていたエルフィーナと出会う。


「これはこれはエルフィーナ殿、ご機嫌麗しゅうございます」


「!! あらあなたは……中で詳しい話を聞かせてくれないかしら?」


 エルフィーナの家へと招かれる。




「……お帰りなさい。あなた」


 エルフィーナの家で2人きりなった彼女が最初に口にしたのはその言葉だった。


「ただいま。久しぶりだな」


 彼女を前にして元夫の最初のセリフはそれだった。クーデター軍が襲い掛かってくる数日前に逃げ出して以来、なし崩し的に離婚が成立していたのだ。




「不思議なもので1度は捨てた故郷でもいつかは戻ってくるものなんだな。そっちは変わりないか?」


「ええまぁ。いつもと変わらない毎日ね」


「……2500年も生きれば生きることに退屈にならないかね?」


「そうでもないわね。今ではちょっとした変化にも鋭くなってるから」




 エルフィーナはエルフだが普通のエルフなら1000年程しか生きれない。


 2500年も生きているのは「白き神の教え」の信仰対象である白い竜から加護をもらう、正確に言えば「身体の書き換え」をしてもらい、その教えを広めるための神官として永遠の命をもらったからだ。


 銀色の髪に黄金色の瞳という白き神と同じ目と髪を持つのもその証拠。それにエクムントが白き神と知り合いになれたのも彼女の協力があってこその物だ。


「初めて会った時の出会いは最悪だったな。そんな私をここまで引き上げてくれるとはもう頭が上がりませんな」


「いいのよ。私は白き神の教えの下で世界の幸福の総量を増やしているだけの事。この程度大したことではないわ。すっかり慣れちゃったし」


 2人は昔の話をしだした。




◇◇◇




「……ヴラド家に嫁げ、ですか」


 隣国を侵略し拡大の一途をたどるテッド率いるヴラド国。その侵略の魔の手がエルフの国、サルバリオン国にも及ぼうとしていた。


 地の利はあれど5倍以上の兵力の差は絶対的。このままでは男は労働奴隷に、女は性奴隷になり蹂躙じゅうりんされるかと思いきやとある条件を飲めば同盟を結ぶと宣言してきた。


 その内容は、サルバリオン国女王エルフィーナをヴラド国に嫁がせる事……要は政略結婚だ。


 世界の美女の中でも屈指の美貌びぼうを持つとされるエルフィーナ。その美しさに加えどこか神聖さを漂わせる雰囲気に男たちならだれもが欲しがる女だった。




「分かりました。テッドの元へ嫁ぎましょう」


「!! エルフィーナ様!」


 その早い決断に周りの者は大いにうろたえる。


「エルフィーナ様! そんなにも早く重大な決断をするのは時期尚早じきしょうそうかと思いますが……」


「では聞くけど悩めば悩むほどいい答えを出すことは出来るのかしら?」


「!! いえ……それは」


「では決まりね。大丈夫、誰かの物になるなんて今に始まった話じゃないわ。慣れてるから心配しないで」


 こうしてヴラド国王テッドはエルフィーナを嫁に迎え、自分だけの物にした。その歳、まだ14歳の頃だった。




【次回予告】


テッドの元へと嫁いだエルフィーナ。そんな彼女と触れ合ううちに、彼の心は変わっていく。


第23話 「改心」

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