第7話 新たな知り合い

 国王からの依頼を無事成し遂げた翌日、エクムントはグラッドの工房を訪ねていた。


 中は暦の上では春になったばかりでまだ肌寒い日が続くというのに蒸し暑く、職人たちが汗を拭きながら熱い鉄をハンマーで叩く音がそこかしこで聞こえていて、


 活気のある所だというのが素人目で見ても分かる位だ。


 その鍛冶職人の中に混じって作業をしているドワーフの肩を叩き、話を始めた。




「お仕事中の所、失礼しますよグラッドさん」


「よぉお前さんは……たしかエクムントだったな! お前さんあの国王を説得してくれたようだな。


 急にガレッガ鉱山産の鉄鉱石を持ってきたのにはビックリしたがアイツもようやく鉄の事が分かったみたいで良かったよ」


 そこには初対面の際に見せた険しい表情はどこへやら。それとは正反対の終始穏やかな顔をしていた。


「ちょっと話したいことがあるんですがお時間はよろしいですかね?」


「ああ構わん。お前さんの頼みならいくらでも聞いてやるぞ」


 グラッドは汗を拭きながらエクムントと一緒に応接室へと向かった。




「……で、話というのはどういうものなんだ?」


「まぁ手続きとしては数分で終わるような内容なんですが、あなたの同意が必要な事なので今回声をおかけしました」


 そう言ってエクムントは持っていたみがき抜かれた石板のような魔導器具と、辞書のように分厚い本を取り出す。


「こいつは……何だ?」


「この石板みたいなものは契約した人と私が通話するために使う魔導器具で、この本は契約した人を呼び出すための召喚術が書き込まれた本です。


 単刀直入に言えばグラッドさん、あなたと契約を結びたいと思って今回まいりました」


 エクムントはそう説明する。




「ふーむ。通話に召喚ねぇ。お前さんと話ができるというのは別に構わんが、召喚っていうのが引っかかるな。俺は魔法に関してはド素人だからな」


「召喚する前に通話をしてあらかじめいつ呼び出すかは決めますし、された後も仕事が終われば自らの意思で召喚された場所に帰ることもできますから呼び出されたらそのまま。というわけではありませんのでご安心ください」


「なるほど、つまりはお前の人脈になれってわけか?」


「察していただいてありがたい限りです。要はそういう事です。


 契約さえしてくれれば私が持っている仕事や人脈の紹介なども致しますので、グラッドさんにとっても良い話だとは思うのですがいかがいたしましょうか? もちろん強制はしません」


「うーむ……」


 グラッドは腕を組み黙る。しばらくして……。




「よし分かった、契約しよう。他でもないお前さんの頼みだ。断るのも悪いからな」


「ありがとうございます。では……」


 エクムントは石板のような魔導器具を操作し、グラッドの前に出す。


「では石板に手を当ててください。それで契約は成立します」


「ん、分かった」


 グラッドは言われるがまま石板に手を当てる。石板が淡い白色の光を放った。




「では次に召喚術の契約ですね。この本にあなたの名前をサインして下さい」


 エクムントはそう言って本の既に何人かの名前が書かれたページを開き、それと同時に携帯型のペンと墨壺すみつぼを差し出す。グラッドは言われるがまま無骨な文字でサインをした。


「これで終わりか?」


「ええ終わりです。これであなたとはいつでも通話できるようになったし、召喚にも応じられるようになりました。時々話をしますのでその時はどうぞよろしくお願いしますね」


「ん、分かった。話はこれだけか?」


「ええ、これだけです。ご対応いただき本当にありがとうございます。では失礼します」


「お前さんは冒険者だからまた旅に出るのか? その年で大変だなぁ。まぁいい困ったらいつでも連絡よこしてくれよ、力になるからな」


 そう言って2人は別れた。




【次回予告】


王国に隣接するとある領主が治める地、そこでも事件は起きていた。解決のためエクムントが動き出す。


第8話 「緊急クエスト 息子の捜索 前編」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る