第12話 エクムント救出作戦 後編

「!? な、なんだ!?」


 墓場からよみがえったゾンビやスケルトンが城目がけて進撃する。その数は30程。数は多くないが突如現れた敵に慌てて迎撃態勢をとる。


 基本的に敵は「外側」から襲ってくるため「内側」の守りは甘い事が多い。傭兵王の国もそうで「外側」を守る兵は多くても「内側」を守る兵は少なかった。


「何ぃ!? ゾンビやスケルトンが城目がけて突っ込んでくるだと!?」


 傭兵王は謁見の間に居座るティムをギロリとにらむ。




「ティム! お前のせいか!?」


「いいや違うね。俺の友人ダチを捕まえたお前が悪い。解放してくれればすぐに止めるさ」


「こ、この野郎!」


 傭兵王が剣を抜きティムに襲い掛かるが、次の瞬間!


 まるで騎兵によるランスの突撃が腕に直撃したかのような衝撃が傭兵王を襲い、態勢を大きく崩す。


 そこには殺気に満ちた獰猛どうもう怪物キチジロウがおり、傭兵王を視線で射抜く。


「今スグ友ヲ解放セヨ。村正ハ血ニ飢エテイル。斬ルゾ!」


「ひ……!」


 勝負ありだ。




「わ、分かった! 分かったから辞めてくれ!」


「何が分かったんだ? 言ってみろ」


「エクムントを解放する! それでいいんだろ!?」


「よし分かった」


 ティムが指をパチン! と鳴らすと死体が次々と糸が切れた操り人形のように崩れ落ち、動かなくなった。


 と同時に吉次郎きちじろうも殺気に満ちた猛獣から元の初老の侍へと戻った。


 吉次郎、ティム、傭兵王の3人は牢獄へと向かい、エクムントと再会する。もちろん彼は釈放され、自由の身となった。




「エクムント殿、ご無事で!」


「よぉエクムント、まだくたばってはいないようだな」


「おお、吉次郎にティムか! 久しぶりだな」


 3人は再会の喜びを分かち合った。




「しかしまぁエクムント、お前は人が良すぎるぜ? 拷問に遭わされといてそれを許すなんてお人よしにも程があるぜ?」


それがしも同じ次第でござるなぁ。エクムント殿は妙な部分で人が出来過ぎていると言いますか、された仕打ちに対して妙に寛大な部分があるのですが昔、何かあったでござるか?」


「……まぁ昔、色々ありましてな。彼のやったことは私がしたことに比べれば『おままごと』ですよ」


「へぇ、おままごとねぇ! どんな酷い事をしたんだ!?」


「……今は話したくないですな」


「ふーん。いつものパターンだな。まぁいいや、オレみたいな不死者アンデッドは時間なら無限にある。お前が生きている間に言ってくれればいいさ」




 3人は城を出ると城門近くに動かなくなったスケルトンやゾンビが倒れているのが目に入った。


「ティム、また暴れたのか……」


「昔からの癖でねぇ。これでも我慢できた方だぜ? 昔は1分も我慢できなかったが今回は10分は我慢できたぜ?」


「うん、進歩しているな。良い感じだぞ」


「ふーむ、確かに進歩と言えば進歩でござるが……」


「久しぶりに会えたことだし一緒に喫茶店でも寄らねえか?」


「吉次郎を加えて3名になるけど良いでしょうか?」


「んー、できれば2人の方がよかったがまぁ良いか。早速行こうぜ」




 3人は城下町にあるカフェで紅茶を飲みつつ話を始める。


「最近の出来事ねぇ。そういえば城下町に新しい劇場が出来たんだ。最新の音響機器を備えた、世界に誇れるくらいのすげえのが出来たんだぜ!」


「そういえばティム殿の不死の国では芸術文化が盛んで、特に劇や芝居に力を入れていると聞いているでござるが……」


「まぁな。留学に来る芸術家の卵たちも多くなったしそれなりに知名度はあると思うぜ」


 ティムの国を始めとした死者の国というのは芸術が盛んな地域である。


 魔王が各地に産まれ世界を巻き込んだ戦乱の世は去り、それまでは不死身の兵士を輸出して一儲けしていた死者の国は商売替えをして今では芸術の都となっている。




「それで、エクムント殿。最近のお主は何をしているでござるか?」


「いつものように冒険者としてクエストをこなしています。この前は頑固で偏屈へんくつ者のドワーフを説得していました。


 依頼主の国王は1年以上説得に応じなかった彼をほんの数日で口説き落としたのを見て驚いていましたよ」


「ハハッ。そなたらしいエピソードですな」


「他にも行方不明になった領主の息子を探していました。なんでもメイドと恋仲になって屋敷を抜け出したとか……」


「それ採用! 今度の恋愛小説のネタにしてもらうぜ! 構わないだろ!?」


 そんな感じでお互いの最近起きた出来事を話しているうちに時間はあっという間に過ぎた。




「おっと、もうこんな時間でござるか。そろそろ帰らねば妻が心配しているでござるな」


「そうだな。オレも帰らねえと仕事が溜まっちまうからなぁ。エクムント、久しぶりに話が出来て良かったぜ。んじゃあまたな」


 2人は転移魔法を使ってそれぞれの故郷へと戻っていった。




(2人には帰るべき故郷がある。私には……)


 かつて住んでいた場所に圧政を敷いた挙句、反乱軍を恐れて妻であるエルフィーナを捨てて逃げ出したこともあった。家庭を持つことなど、自分には許されないだろう。


 帰るべき場所のある2人を見送り1人になった後、エクムントは傭兵王の城下町でクエストがあるか確認することにした。




【次回予告】


「猫に嫌われている」それは公爵令嬢の娘にとっては金を出してでも解決したい、切実な悩みであった。


第13話 「猫に嫌われる女 前編」

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