第3話 クエストクリアー
エクムントと十分話をして休んだ後、その日の夕方にフレデリカは王族お抱えの医者の付き添いの元、下調べとして城内にある錬金術を行う部屋へと案内された。
「我が国における最新の設備を備えております。ただ、フレデリカ様のご期待に添えられるかどうかは分かりませんが」
「うーん……大丈夫よ。これだけ揃ってれば目的の薬を作ることはできるわ。後は材料が揃いさえすればいつでもOKよ」
「かしこまりました。明日の昼頃までには材料は全て揃う手はずなので、それまで待っていただければと思います。それと……ぶしつけながらサインをいただけますか?」
「私で良ければサインの1つお安い御用ですよ」
そう言って彼が持参した色紙にペンでサインを入れる。
「おおお! まさかフレデリカ様のサインがもらえるとは思いもしませんでしたよ! 家宝として末代まで継がせますぞ! いやぁ長生きはしてみるものですな!」
ルンルンと弾むような上機嫌で彼は去っていった。
「う~……疲れた」
設備の確認が出来たので一安心したところまた疲れが襲ってきた。
「虚弱体質なのは相変わらずですね」
エクムントが心配して声をかけてきた。
「うん。エリクサーでもこの体質は治らないのよね。薬では何とも出来そうにないのがもどかしい話だわ」
フレデリカは幼いころから虚弱体質で体が弱く、それを克服する薬を作るために薬剤師の道を選んだ。今では世界最高の技術を身につけたものの、肝心の体質は変わらなかった。
「こうなったら新薬を作るしかないのかなー。エリクサーでも治せなかったのはちょっとショックだったよねー」
「私の目からしたら前よりは良くなっていますよ。昔は1日に3~4回倒れていたのに今では2回で済んでますし。明日は調合があるから早めに休んだ方が良いですよ」
「うん分かった。おやすみー」
そう言ってエクムントは彼女の部屋とは別に割り当てられた部屋で休むことにした。
翌日
「材料は全て揃いました。あとはお願いいたしますぞ」
「分かったわ。後は任せてちょうだい」
そう言ってフレデリカは作業に入る。素材をすりつぶして粉にし水に浸したり、魔力や科学的反応を駆使して成分を抽出する。それらを混ぜ合わせ、目的の薬を作っていく。
作業が始まって30分ほどが経ち、彼女が部屋から出てきた。その手には薬があった。
「出来たわ。とりあえず30日分作ったわ。1日3回、食後に服用させてね」
早速薬を試してみる。飲ませて間もない頃だった。ゼエッ、ゼエッと荒い息をしながらうなされていた先王の呼吸が楽になったように感じられる。
「父上、お体の具合はどうでしょうか?」
「あ、ああ。少しは楽になったよ。それに少しだけ元気が出てきたように感じるぞ」
「そうですか! それは良かった!」
薬が効いたのか少しだけ元気になった。
フレデリカの薬を投与するようになって3日が経った。先代国王の体調は日に日に良くなり、自力で歩けるようになるまで回復した。
改めて診察したフレデリカが診察結果を現国王に伝える。
「順調に回復しているみたい。後は薬を飲みきるまで経てば完治できると思うわ」
「そうか……エクムント、そしてフレデリカ、今回の働き、まことに大義であった。父の命を救ってくれて本当にありがとう!」
「私は医者や薬剤師としての義務を果たしたまでです。特別なことはしていません」
「私もです。ただ人を紹介したにすぎません」
「クエストはクリアーしたということにしておくよ。後でギルドから報酬を受け取ってくれ。それと、これだ」
そう言って国王は2人に小切手を渡す。なかなかいい額が書き込まれていた。
「あの……これは?」
「ポケットマネーから出したボーナスだ。受け取れ」
国王は2人の活躍を本当に快く思っているらしい。彼らは黙ってそれを受け取った。
「ふう。予想外の収入もあったけど上手くいったね」
「ああ。協力してくれてありがとう」
ギルドから支払われた報奨金を山分けして2人は帰路に就こうと思っていた。
「じゃあ私、もう帰るね。あなたと話ができてうれしかったわ。そのお金、孤児院の寄付で消えるんでしょ? もう30後半だというのに頑張ってるわね」
「私の人生をかけた事業ですからな」
「ふふっ。変わってないわねあなたは。じゃあね」
そう言うと彼女の身体が半透明になり、消えていった。
召喚されたものは自らの意思、あるいは召喚をしたエクムントの意思で元居た場所に戻せるようになっている。それで彼女は自らの意思で自宅へと戻ったのだ。
「ふう……」
エクムントは1人になって息をついた。仕事が終わった達成感は30後半になっても心地いい。
仕事を終えたからまだ夜には早いが飲もう。彼はそう思って城下町の酒場へと足を運んだ。
【次回予告】
クエストをクリアーすることで稼いだ金の大半はこれに消えるという。彼が生涯をかけて挑む慈善事業だ。
第4話 「孤児院経営」
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