最後まで戦い続けた平家武者と、彼を慕い続けた娘のもう一つの平家物語

 平家物語、というと皆さん学校で習うと思うのですが、驕れるものは久しからず、ということで、貴族化した平家がその権に溺れた結果、源氏に敗れた……というような印象を抱いている人も多いのではないでしょうか。

 この物語では、最後まで武門の誇りと勇猛さを忘れなかった教経(のりつね)と平家の行く末を、彼を幼い頃から慕い見つめ続けた玉虫という少女の目線で描いています。

 古典をベースにしていますが、玉虫の目線を通すことで親しみやすく、また彼女の切ない恋心が物語に花を添えています。
 全体的に軽やかでありながら、丁寧に史実を追っていて、また当時の習俗なども細やかに描かれているため、歴史物語としてもしっかりと楽しめました。

 とある別の女性に心を奪われ、決して玉虫を振り向こうとはしない教経と、それでも彼を慕い続けた二人の切ない運命の行方。

 おてんばな玉虫の様子が微笑ましい穏やかな始まりから、やがて平家が都落ちし、どんどん不穏さを増していく様子に、その結末を知っていいてさえ先が気になってあっという間に読み切ってしまいました。
 何より、壇ノ浦の情景はあまりに過酷で、思わず目を背けたくなるほどの迫力。

 十万字程度と読みやすい長さなので、腰を据えての一気読みがおすすめです!

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