第11話 ヤクザ・フィールド・ウォー
「オラあああ! このアホどもが! 誰の国に喧嘩売っとんじゃい!」
カレル王国、国境付近。リュウは日本刀を片手に、敵国の兵士を切り捨てていく。だだっ広い平野に敵も味方も入り乱れ、戦争というには小汚いどんちゃん騒ぎだなとリュウは思った。地面にどれだけ血を吐き出しても、人の群れは消えはしない。
「魔導大砲だ! 逃げろ! 逃げろ!」
その声は多分、味方だったと思う。敵側の陣地から花火でも上がるような音が聞こえ、着弾音は味方側だ。振り返ると、後ろにいたはずの大隊が吹き飛んでいた。赤い鎧の破片が原っぱに散乱している。
「テメェら! 続け! 大砲だかなんだか知らんが、破壊してやるで!」
「待つっす、兄貴! 撤退っす!」
突っ込もうとしたリュウを、ペチコートに止められた。彼女が着込んだ重鎧も、所々凹んでいた。
「なんでや! まだ俺は戦えるで!」
「さっきので私たちの舞台の半分は吹き飛んだ。壊滅っす、戦争は個人の戦いじゃないんすよ」
「ぐぅ……わかった」
リュウは歯噛みしながら、血濡れた平野を逆走した。
◆
「これでまた領地が減りますね」
城に戻るとメイドのクリィが、王の書斎にいた。彼女が今は、コゼットの代わりの雑事を片付けている。
「やれやれや、ただ殴り込むだけじゃ埒があかんねん。海域封鎖の方はどうなったんや」
「ケーニッヒの魔法船部隊が睨みを効かせていますが、徐々に押し切られているそうです」
「時間の問題やな」
「リュウ、どこへ行くんですか?」
「お嬢のところや。兵法は知らねえが、士気の大切さは知ってるで。うちの大将がやるきをだせねば、ならんのや」
リュウは書斎を出て、王の寝室へ向かう。大仰なドアを叩いて開け、だだっ広いベッドに膝を抱いているコゼットがいた。彼女はゆっくりと喋った。
「……戦争をしているの?」
「そうや。一人でいつまでそうしている?」
「だって勝てる戦争じゃないから」
「あの時、父親と出会ってどう思った?」
「悲しかった……私の信じていた、昔のパパはいなかった」
敵国と手を組んだ、カレルの先代はこの国を乗っ取る気だ。
「だったらこんな所で引きこもっている場合じゃないんや! お前は王女や! この国を牛耳り、どんなワガママだって叶えられる! 一国の支配者や! 悔しいと思ったらやり返せ!」
「でも……」
「今、不安に思っているのはお前だけやない。戦いに赴く兵士たちや、戦争に怯える国民たちや。だからこそボスは誰よりも戦う姿勢を持たないといかん! お願いや……俺も不安なんや。お前のワガママで元気な姿を見せてくれや」
リュウはベッドの脇で項垂れた。その頭をコゼットは撫でてくれた。
「……まったく仕方ないわね。でかい図体していて、私がいないと何にもできないんだから」
「お嬢……」
リュウが頭を上げると、コゼットは微笑を浮かべていた。
「クリィに色々任せているわけにはいかないわね。どいつもこいつも無能ばっかり、こんな国をお父様が統治できるわけない。ぶん殴って、説教してあげるわ!」
コゼットが立ち上がって、ベッドの上で仁王立ちした。小さいけれど頼もしい、我らの王女の姿だ。
「リュウさん、席を外してください」
部屋の外に、クリィがいた。いつから聞いていたのだろうか。
「お嬢と話やな? 我らの姫はやる気になってくれたで」
「ええ。ヴェンジャンス帝国と穏便に停戦する方法があります。それは陛下、あなただけのお耳にお入れしたいのです」
どこか引っかかる感覚がしたが、リュウはクリィと入れ替わり部屋の外へ出た。
◆
その日の夜、コゼットとクリィは城から忽然と姿を消した。
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