事実は小説より奇なり

登場人物の性格の濃さ、方言を含んだ発言のリアリティ、大袈裟な描写はないけれど表皮一枚下の激情をたしかに感じる心理描写。
文芸部に所属していたことはないのですが、主人公と一体化するような読み味であり、また「文芸部とは、大学とはこんな雰囲気なのか」といった未知の世界を味わえる部分もあり、徹頭徹尾飽きることなく、とても楽しく読ませて頂きました。

中盤までは問題児な先輩方との戦いの日々や心の葛藤が描かれていて、ハラハラドキドキしながら読み進めたのですが、後半の穏やかな文芸部で、自身の問題と向き合っていく主人公の静かな姿勢が、一番心に残りました。最後の小説とあとがきは、本当に「よかった……よかったねぇ……」と思いながら読みましたし、三年間文芸部で戦ってきた主人公の成長が分かって、終盤は卒業式のようなしんみりした気持ちになりました。
この作品に掲載されている短編小説は、どれも前もって読ませて貰っていたのですが「こんなことを考えながら書いていたのか」「ここまで緻密に計算していたのか」ということが分かって、新しい気持ちで読み直すことができました。

「エッセイは書きやすいですよ」と作者さんは仰ってましたが、ここまで赤裸々に生の感情を綴るというのは、なかなか私には難しいので、等身大の感情を伸びやかに、かつ面白く書けるというのは、作者さんの持つ才能のひとつだと思います。
自分のことは自分では分からないものだとよく言いますが、あなたもちゃんとレグルスですよ!

最後に、長編エッセイの執筆おつかれさまでした。本当に面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。
創作を頑張る主人公の姿勢に、私も励まされた思いがします。

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