【文芸部エッセイ】ただしさ

サンド

1話 嘘






 迷いはない。


 大学内の学生用の窓口で「すみません」が上擦った。文芸部に入部したい趣旨を伝えると、受付の方はキーボードを気持ちよく鳴らし、何処かに電話をかけた後、ぼくに向き直った。

「文芸部の幹事さんに確認したら、月曜日の18時から活動するみたいだから、直接部室に行って」

 部室の場所はわかる? と言われ頷くとメモを渡された。幹事の方のメールアドレスが書いてあったけど、きっと使うことはないだろう。


 月曜日。

 部室棟二階の真ん中に文芸部の部室はある。部室前にかわいい猫と共に文芸部と書かれた立て看板があって、安心して扉を3回ノック出来た。2回やるのはトイレだと、見事に滑った某大学の入試の練習で学んだ。

「お、新入生? こんにちは!」

「こんにちは〜…」

 初対面の相手には、眼鏡の地味女子が控えめに挨拶するようなイメージで発声してしまう。そういうポーズだから、なんだか声と仕草が一致しない感じがすると、よく言われるのだ。そして今も言われた。

「えっ、声意外……」

 あ、ごめん、悪い意味やないんよ、と、はにかんだふとましくボーイッシュな髪の女性はタカギと名乗った。ちなみに、ぼくが太った人に対して風当たりが強くなるのは文芸部を引退してからの話。


 タカギ先輩は次期幹事で2年だという。


 3年の現幹事も交えて緊張しながら話していたら、別の一年が二人いることに気がついた。

「この辺一年だから、喋りな」

 タカギ先輩に促されたぼくらは、順に「池添です」「中村雄平です」「多田です」と名乗った。池添はぼく。雄平くんは、いわゆる大人しい系で、ラノベとか読む。ちょっとおどおどしてる感じの、ああ、いたなぁ、クラスに。という感じ……。

 多田くんは、同じ一年だし仲良くなろうぜ、喋ろうぜ的な雰囲気があった。4月って感じがする。クラス替え2日目の、クラススローガンを決めるため、机をガタガタ鳴らして班を作ったあの空気感。よろしくな、お前も、お前も、ああそこのお前も、どういうやつか知らんがとりあえず仲良くやろうぜ、うんうん、いいねいいねニコニコ。高校で3年間クラス替えのなかったぼくには、なんだか懐かしい雰囲気であった。

 タカギ先輩が「君たちはなぜこんな……こんなとか言ったらあれやわ、なぜ文芸部に来たんだい?」と聞くので、雰囲気はクラス替えから集団面接へ変わった。

 多田くんは「書くのが好きで、ちょっと書いたこともあって」と言っていた。雄平くんも書いた経験があるらしい。


 対してぼくは、嘘をついた。


「小説は書いたことなくて、書きたいって気持ちはさほどないんですけど……でも読むのが好きだから入りました!」



 ーー読むのが好きだから、読みたいから入ったなんて、真っ赤な嘘だった。



「ああ、そうなんや! 大丈夫よ全然!」とニカっと笑うタカギ先輩に、ぼくは頭の後ろをかいて、苦笑いを作った。


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