第三章 笑顔と信頼はプライスレス③
カフェでレナルドと
レナルドはダミアンのために軍の知り合いを紹介してくれるかもしれない。だけど、もしダメだった場合に備えて、
ダミアンが言っていたように、魚の瓶詰めを内陸部に売るのはいい案だと思う。その場合、都市の産業構造や人口分布の
私は各都市の特徴をノートに書き出していき、ふと途中でペンを止めた。
前世の私はまだ
ダメだ。今日は頭が疲れてる。こういう時に考え事をしても、ろくな結果にならない。
時計を見ると、零時を過ぎていた。早く
私は荷物をまとめて席を立った。時間を意識した
「こんばんは、ヴィオラ。ずいぶん
図書館の入口で待ち構えていたレナルドが、私を見て
「ごきげんよう、レナード。あなたもこんな
「まぁ、そんなところだな」
レナルドはそう言うと、辺りに人がいないのを
「今日は思いがけずカフェで君に会えて
「私もよ。王宮の外でのあなたを見られて、とても
「君にも同じ質問をしたいな。ダミアンの前で、君はいつも
実はダミアンといる時の方が
答えに
「わかった、質問を変えよう。私が瓶詰めの計画に携わることを、君はどう思っている?」
「……とても
「なら、仲間として教えてくれないか? 君がなぜあの計画を始めたのか、その真意を」
何があっても、最後はその質問に行き着くのね。カフェでダミアンが話したことを、レナルドは単なる作り話だと思っているらしい。
ここで本音を打ち明けても、信じてもらえるかわからない。しかし、表面だけの受け答えはさらなる不信感を招き、プロジェクトの足を引っ張るかもしれない。そういう事態だけは
「ダミアンが話した通りよ。
「それで、瓶詰めを大量に作ってどうするつもりだ?」
「大切なのは瓶詰めを作ることより、瓶詰めを生産するための工場を作ることだと、私は考えているわ。もちろん瓶詰めが売れたら、それに
レナルドが私の真意を測りかねたのか、
「あなたも知ってるように、今の王都には十分な働き口がないわ。そこへ瓶詰め工場を作れば、新たな
私を見下ろすレナルドの目が
「それで、君は
「……………………」
私は目を
こういう時は
「あの
レナルドの視線が
「なるほどな。君の言い分は一応筋が通っている。しかし、なぜだ? なぜ君はこうも急に民のことを考えるようになったんだ?」
「殺されたくないからよ」
「……は?」
あ、まずい。つい余計な本音までダダ
「私はその、今まで税金で
「それが君の設定というわけか」
うっ、やっぱり信じてもらえないか。一瞬、前世を思い出したことを正直に打ち明けて、私の性格が変わった理由を一から説明したいと願ってしまった。しかし、それはさらなる混乱を招くだけだ。
「まぁ、いい。今しばらくは君の
レナルドが私の
明日からずっとこの腹黒王子に
レナルドという予想外の因子が加わった今、プロジェクトがこの先どう転ぶかわからない。せめて内陸部への売り込みだけでも、私の手で成功させなくちゃ。
そう考えた私は、その日、寝落ちするまでずっと自分の部屋で王国の地図を眺めていた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
レナルドがプロジェクトに加わってから二週間が過ぎた。その日の夕方、私は自分の部屋のベッドで
四六時中レナルドと
私はよりにもよって失敗してしまったんだ。地方への瓶詰めの売り込みに。
今日の午後、私は貴族のご
しかし、私が料理人に頼んで作ってもらった
いろんな男性の名前が挙がる中、一番人気は正統派王子のレナルドだった。同じ王子でも、リアムの方は引き
そんな中、ダークホースとして名を連ねたのが、あのラルスだった。若いイケメンは王宮の外でもチェックする。そんなご令嬢たちの熱意と
確かにラルスはモテるよ。一見無骨でありながら、意識せずにレディーファーストをやってのける点がたまらないのか、中には彼に会うため、
その筆頭は、差し入れをしに来たアナリーの
ラルスの方は特定の女性とつき合う気もなさそうだけど、
まぁ、そんな風にご令嬢たちがゴシップに熱中していたせいで、私は
先の読めない不安に
「ヴィオレッタ様、今よろしいでしょうか?」
「ちょっと待って」
「もう
「申し訳ございません。実は先ほどレナルド様がお見えになりまして。応接間の方にお通ししたのですが、よろしかったでしょうか?」
レナルドが相手じゃあ、熟練の侍女だって
「レナルドを案内してくれて、ありがとう。あとは私が対応するわ」
私はそう言うと、すぐに部屋を出た。果たして、レナルドは本当に応接間にいた。
「
「何? 瓶詰めのことで
「いや、君に関することで
私はレナルドの向かいに座りながら、思わずげんなりした。
どうせ「ヴィオレッタ様、ご乱心」のような、ろくでもない噂を聞いたんでしょう。今さら追加で何を噂されても動じない自信が私にはあった。それなのに……。
「君が魚
「は? 魚……何?」
「魚信仰だよ。国王試験のプレッシャーでおかしくなった君は、魚を食べることで頭がよくなるという
何それ! 「ヴィオレッタ様、ご乱心」の進化形にしても、心が乱れすぎでしょ!
「不本意そうだな。だが、火のない所に
別に何も……と答えたところで、レナルドは
「その様子、やっぱり心当たりがあるんだな」
「待って、誤解よ! 私はお茶会で内陸部出身のご令嬢たちに魚の瓶詰めを使った軽食を勧めただけで……」
レナルドの
「瓶詰めをどうにかして売りたいという君の熱意は伝わった。だが、そういうことなら、なぜ君の正体を知っている私にも事前に相談をしなかったんだ?」
「……ごめんなさい」
レナルドの批判はもっともだ。プロジェクトでの独断専行を責められ、私は謝ることしかできなかった。しかし同時に、そんな彼の態度を少し意外にも感じた。
この二週間ほど一緒に仕事をしてきたことで、仲間としての意識が芽生えたのだろうか? 私に事前相談を求めるなんて……いや、単に余計なことをされて
レナルドの表情から、その真意を読み取ることはできない。彼は困惑している私を見下ろし、小さなため息をこぼした。
「今回、君は明らかに宣伝相手を
「どうして? 試食さえしてもらえれば、瓶詰めの良さを実感してもらえると思ったんだけど……やっぱりご令嬢相手には果物の瓶詰めを作って宣伝した方がよかったかしら?」
「そういう問題じゃないだろう? 貴族たちは
「言われてみれば、確かに」
ビストロで瓶詰めの納入を断られた時と同じ
静かに落ち込む私に、レナルドがさらなる追い打ちをかけてきた。
「君はお茶会で内陸部出身の令嬢たちに声をかけたそうだが、その反応はどうだった? 彼女たちは、今まで君から
「……ええ、そうだけど。それが何か?」
「君がその令嬢たちをいじめたと噂になっている」
なんでそんなことに!?……もしかして、あの時のあれか!
私が地方出身のご令嬢たちにカナッペを勧めた時、横で見ていた
今度あの地方出身のご令嬢たちに会う機会があったら、謝ろう。でも、それで許してもらえたとしても、彼女たちを通じて瓶詰めを地方に売り込む計画はもう絶望的だろうな。
「今後、どうやって内陸部に魚の瓶詰めを売ろう?
地方に住む貴族たちに手紙を書くことはできても、その中で瓶詰めの
「君は、王侯貴族が瓶詰めを買い取り、それを内陸部の市場に
「私には貴族以外のつてがなかったというだけで、売り方や売り先にこだわる必要はないわ。最終的に
「なら明日、私と一緒に来るか? 君さえよければ、知り合いの商人を紹介しよう」
「えっ……」
私は
やっぱりレナルドは私のことを少しは仲間として認めてくれるようになったのかな? 知り合いまで紹介してくれるなんて、今までの彼であれば絶対になかったことだ。
私がまじまじと顔を見つめていると、レナルドが不満そうに口の
「私だって計画に
「ううん、そんなことないわ! ぜひお願い!」
私はレナルドの変化に
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