第一章 転職先は悪役王女?③
アナリーと会った日から、私は毎日のようにお
しかもアナリーの作る薬は効能まで
こんな素敵な子には、ぜひ幸せになってほしい。できれば、ゲームの攻略キャラ以外と。
最近になって思い出したことだけど、このゲームの
例えば、レナルドのルートであれば
未来で起きる
いやいや、今までずっと王位に
それに、この国が将来大変なことになると知っていて、自分だけが安全な場所に逃げるのも
私が頭を
このまま部屋で
身分制度が根付いているこの国の王都では、地区によって住んでいる人々の階層が異なる。今日私が向かった先は、商人や職人のような中産階級の人たちでにぎわう地区だった。
私はいつものように店を見て回りながら買い物をして、その場に居合わせた人たちと雑談を
そうやって、午後も三時を過ぎた
忘れもしない。前にアナリーをナンパしていた男が、道の反対側から歩いてきたんだ。名前はエリクといったか。彼は私に気づくことなく、通りの
私は店の看板を見て、首をかしげた。そこは薬屋だったのだ。アナリーの話から察するに、エリクは定期的に彼女の治療院で薬を出してもらっているはずなのに、どうして?
なんだか気になった私は、通りに面した窓から店内を
奥の方に設置されたカウンターの上に、エリクが薬の包みをいくつも並べている。それは、彼がこの店で購入したものではない。彼のポケットから取り出されたものだったんだ。
気難しそうな顔をした年配の男がカウンターに出された包みを一つずつ
どう見たって、
前に聞いた噂が
まさかアナリーを引き抜けないからといって、代わりに彼女の調合した薬をエリクから買い取り、転売しているの? それもプロの薬屋が?
その後、王宮に戻った私は図書館に直行してスヴェンを探した。彼はいつものように窓辺の席で本を読んでいたが、私に気づくとすぐに
「ヴィオレッタ様、お帰りなさいませ。街歩きはいかがでしたか?」
「今日はとても興味深いことがありました。そのことに関し、スヴェン先生に教えてほしいのですが……この国では、薬の転売は法律的に問題ないのでしょうか?」
「ヴィオレッタ様、街で何をご覧になったのです?」
スヴェンの青みがかったグレーの
その結果、さらに頭の痛くなる事実が発覚したんだ。なんとこの国には、薬の転売を禁じる法がないらしい。となれば、エリクの
アナリーは本気で貧しい人たちのためを思って働いている。そんな彼女の努力を
いや、ダメだ。今、私が彼女と
だけど、このまま不正を見なかった振りをして、自分の正義に
前世で死ぬ直前に
アナリーにはこの間、
「ヴィオレッタ様、急に
スヴェンがいつもの笑顔で様子を
「先生、お願いです。馬車の手配をしてください。今日はもう一度街に出ます」
スヴェンだって、私の行動を疑問に思わなかったはずがない。ましてや、前世を思い出す前の自分の言動を思うと、何をやらかすか心配で仕方なかったと思う。それでも彼は余計な
◆◆◆◆◆◆◆
私が治療院に着いた時、時刻はすでに四時を過ぎていた。それなのに、治療院の前には
「ヴィオラ様! 遊びにいらしてくださったんですね!」
治療院の扉を開けた私を見て、すり
アナリーの元々白かった
「ごめんなさい。せっかく来てくださったのに、今ちょっと手が
「こっちこそ急にお
「そんな、ヴィオラ様に何かさせるなんて……」
アナリーはひたすら
「ヴィオラ様、お
アナリーがフラフラした様子でそう言ってきたのは、日も
ついでに言えば、今の私もアナリーと同じくらいヨレヨレだった。単なる洗い物だと思ってなめていた。すべて手動の洗濯はかなりの重労働になることを、私は初めて知ったんだ。
「ヴィオラ様、ラルスもお茶が入りました。もしよければ、どうぞ」
「アナリーも疲れているのに、ありがとう。喜んで
アナリーは
そうして一息ついたところで、私は王宮から持ってきたお菓子をアナリーに差し出した。
「この間は私の足を
「そんな、お気遣いいただかなくてよかったのに」
「ううん、私が何かお礼をしたかっただけだから、気にせずに受け取って。それより、ここから先が本題なんだけど」
私は息を吸い、
「実はね、あなたの調合した薬が街で転売されているかもしれないの」
「なんだとっ!?」
ガタッと音を立てて
「転売とは、私の薬を
「この場合はそうなるわね」
「それのどこが問題なのでしょう? 最終的に困っている人の手に渡るなら、いいのでは?」
「え……」
まさかの反応に、私は絶句した。スヴェンやラルスの様子からして、「薬の転売がいけない」というのはこの国でも常識だと思っていたのに、どうやら違ったらしい。
「いい、アナリー? 万が一、
「ええ。でも、それなら転売された薬を買わず、直接
「こう言っては悪いけど、世の中には自分の身分を
かつての私がそうだったように、と内心でつけ加える。前世を思い出す前の私だったら、きっと治療院のことを「
「アナリー様、俺は転売によって不当に利益を得ている輩が許せません!」
ラルスがドンッとテーブルをたたいて
「ヴィオラ様、もしよければ転売の
ラルスの求めにうなずき、私は昨日見たことを語って聞かせた。慎重に言葉を選んだつもりでも、ラルスは
「エリクの
「許せないわよね。
「……あ、ごめんなさい。ちょっと疲れてて」
アナリーがハッとして首を横に
「アナリー、ちゃんと食べて
「………………」
アナリーがなぜか無言で目を
なに、この反応? ラルスのような教会所属の
私の疑問に、ラルスがため息で答えた。
「ヴィオラ様が教会に対してどんなイメージをお持ちか知りませんが、教会が助けてくれるはずないですよ。あいつらは
「え!? じゃあ、治療院の運営費も薬代も全部アナリーの自腹なの!?」
さすがゲームのヒロイン。利他主義を
「あの、ヴィオラ様は全部自腹だとおっしゃいますが、そんなことはありません」
私の
「私の活動を支援してくださる方々も、中にはいらっしゃるんですよ。現に、この治療院に使っている小屋だって、そういった方の善意で貸していただいていますし」
「反対に言えば、薬代の方は自腹なのね?」
「……森で採取する薬草や、畑で育てている薬草もありますし、全部が自腹というわけでは」
「それ、アナリーの労働力を消費してる時点で、自腹の
私は全力でつっこむと同時に、深いため息を
「アナリーの行いは立派だけど、そういう自己
「でも、目の前に助けられる患者さんがいるんですよ? 今助けなければ、明日の暮らしにも困るような人たちが! 医療の心得がある者として、無視できません!」
アナリーが
いつもかわいくて気遣い屋のアナリーが、ここまでの
ゲームのヒロインだからこそ、アナリーは人のために
「ねぇアナリー、あなたはどうしてそこまで他人のために
「え……」
アナリーの目が
「私の両親は医者だったんです。貧しい人たちからは過度な診療費を取らず、町の人たちのために尽くしていました。二人とも、私が十歳になる前に
そういえば、アナリーは
「両親は生前よく言っていました。『人のために生きられる子になりなさい。そうすれば、人生は何倍も豊かになる』と。私は両親の生き方が
そうか。そのご両親の言葉があったからこそ、アナリーはここまで他人のために生きられる
薬の無償配布に関して、アナリーは一歩も引く気がないらしい。決意を
私はこの目を知っていた。それは、前世で私の両親だった人たちの目に似ていたんだ。
私が小さい
まだ幼かった私は絶望する両親の背中を見て、疑問で頭がいっぱいになった。
両親はいいことをしていたはずなのに、どうして二人の会社は
ああ、そうだった。日々のタスクに追われてばかりですっかり忘れていたけど、私は両親のことがあったからこそ、経営コンサルタントを志望したんだった。両親のように、社会的に良い行いをしてる人たちがきちんと
「ヴィオラ様? 私の話がご不快だったのでしょうか?」
「アナリーは素敵なご両親に育てられたのね。お二人の考えは立派だと思うわ」
「あ、ありがとうございます」
「だけどね、自己犠牲に基づく支援はやっぱりよくないわ。助けられる側の人間が助けられることを当然に感じてしまっても、支援は長続きしないもの」
「そんなこと言って、
今まで黙っていたラルスが
「この国において、貧しい者はどんどん落ちていく。それをあなたは」
「そうね。言い方が悪かったのなら、謝るわ。私も貧困に苦しんでいる人たちを見捨てたくはない。だけど、私はアナリーのように社会的に良い行いをしている人が目の前で潰れていく様を無視する気もないのよ」
前世から
フェアトレードなんてどうせ
「アナリーも
もしかしたら、私はこのために前世の
静まりかえった小屋の中で、じっとアナリーの答えを待つ。そのアクアブルーの
「ありがとうございます、ヴィオラ様。私、そんな風に言ってもらえたのは初めてで……」
私はたまらずアナリーのもとに
「今までずっと一人で頑張ってきたのね。これからは私もいるから大丈夫。なんでも一人で背負い込まないで、その重荷を私にも分けてちょうだい」
「……はい」
「あの、俺の存在は?」
あ、しまった! ラルスのこと、完全に忘れてた!
「ラルスももちろん
「……………………」
ラルスの視線が
明日から
前世ぶりの大型プロジェクトを前にして、私は元経営コンサルタントとしての気分が
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