★★★ Excellent!!!
ケリをつけられなかった青春の延長戦 和田島イサキ
かつての天才美少女ギタリストと、その才能に心底惚れ込んだバンドメンバーの、夢の後の日常とそして再起のお話。
モラトリアムを描いた現代ドラマです。自分の進むべき道を見つけられないまま、それでももがくように生きる人たちの物語。といっても、それは本筋やテーマに近い部分の話で、読み口そのものは決して重苦しくなく、むしろ登場人物の朗らかさや破天荒さのおかげか、どちらかといえば軽妙な印象で楽しく読めました。少なくとも、ただ悩んだり迷ったりするばかりのお話ではないというか、いやほらこういう題材だとどうしても鬱々とした内容を想像されてしまうような気がするので、そうではないですよ、的な意味で。
主人公と言っていいのか、少なくとも視点を担う存在ではあるところの彼、倫太郎さんが好きです。より具体的に言うなら、物語の中心にいる天才・雛目あくりの姿が、彼の目を通してのみ語られるところが。きっと多分に主観が入り混じっていて、あてにならない、とまでは言わないものの、でも彼の心酔っぷりがはっきり読み取れてしまう。彼は本当に彼女のことが大好きで、そして好意以上にその才能に対して全幅の信頼を置いているというか、半ば神様を見るような感覚に近い。そしてそれがはっきり伝わってくるからこそ、中盤以降の展開にものすごくドキドキする。
素手で心臓を握り潰されるかのような、将来に対する嫌な予感。この辺、作中の彼はともかく…
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