最後の楽園で、命の存在意義を問う。

パンデミック、国家間紛争……現在のリアルな日本からほんの少し糸を掛け違えたパラレルワールドのような世界で、人生に希望を見出せない人々のために安楽死が制度化された。
しかし誰でも安楽死を選べるというわけではなく、最低十回は「アシスター」と呼ばれる人と面談をしなければいけない。
また、安楽死の希望を申請するのは人生で一度きりしか認められず、面談の途中で申請を取り下げた場合は今後一切申請することはできない。

まず、この設定の巧さに舌を巻いた。
安楽死が認められる社会という設定までは思いつきそうなものだけれど、そこにいたる過程と葛藤を生み出すシステムが精緻に作り込まれている。まるで実際にその未来の姿を見て書かれた記録のようなリアルさがある。
この設定だけでいくらでも物語を生み出せてしまうだろう……自分も拙いながら小説を書く身としては嫉妬せざるをえない巧さだ。

ただ、物語の進行はあくまで地に足ついた目線。
江ノ島付近にある「ラストリゾート」と呼ばれる専用施設で、「アシスター」になったばかりの少女・眞白が安楽死希望者と面談を重ねていく連作短編だ。
そこに魔法やトンデモテクノロジーは存在せず、人間同士の生身の対話と心情の変化で物語を綴っていく。

……これがまたいい。

作者の楪さんが意識されているかはわからないけれど、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が好きな方は確実にハマるだろう。
波の音すら聞こえてきそうな静かな面談の中で、死を求める人の心の中にある本音を汲み取ろうとする眞白。新人で経験がないながらも一生懸命にアプローチし、時には傷つき、時には生きる喜びを共に見出していく。
様々な人々が彼女の元を訪れるけれど、彼らと交わした言葉や経験が少しずつ眞白の糧になっていくのがとてもよかった。純白だった少女が他者の色に触れて染まり切るのではなく彩(いろ)を増していくのだ。

本作のタイトル『レゾンデートル』は、調べたところフランス語由来の哲学用語で「存在意義」の意味を持つ言葉らしい。
自分に存在意義はあるのか。それはこの作品の中に限らず普遍的な問いではあるが、改めて考えさせられる物語だった。
ぜひたくさんの人に読んでみてほしい。

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