死ぬ意味と生きる意味、どちらに天秤が傾くかを見定める猶予期間の物語。

安楽死という選択が尊重される社会およびそのための制度が整えられた世界。
主人公はそんな世界で「死を希望する」人々と対話する職業に就いた女性。
彼女は仕事という形で「死を希望する」さまざまな人々に関わっていきます。

老若男女。
やってくる人たちの「死にたい理由」「生きたくない理由」はさまざま。
安楽死をしたいと公的に届け出てからの一年間、彼らのその意思が突発的なものではないか確かめるため、あるいは「生きる希望」を見いだすために、主人公たちは彼ら「死を希望する」人々と対話していきます。

そんな関わりの中で、主人公は時に傷つき、時に気づかされ、時に笑い、時に涙し、時に希望を見つけ出し、時に深く絶望していく。

職業として割り切って向き合うべきなのか。
それとも一人の人間として関わるべきなのか。
死を希望する人たちを少しでも減らしたいという一方で、どうしても生きるのがつらいという彼らの意見をないがしろにしていいのか。

職業的意識と道徳的意識。
人と人との関わりが生み出すしがらみ。
安楽死を止めたいと思う一方で、自己犠牲を尊重する二律背反した死生観。
仕事を通して突きつけられる「解けることのない命題」を前に、主人公は静かに自分の頭で考え少しずつ歩んでいきます。

おそらく読者の身に置き換えても答えが出ることがないでしょう。
濃密な苦悩と葛藤をつい考えさせられる上質な社会派作品。
おすすめです。

その他のおすすめレビュー

katternさんの他のおすすめレビュー3,300