生きることと死ぬことの狭間で揺れる心に、1人の少女はそっと寄り添う

制度としての安楽死が認められた未来の日本。
安楽死を希望する者は、申請から1年の間で、人命幇助者=アシスターと10回の面接をし、生死を決める。

これは、アシスターである遠野眞白が見届ける、安楽死志願者たちの物語。

まずは設定がすごい。
いつか、こんな未来が来るかもしれない。けれどもはっきりと想像はできない。そんな絶妙なライン。
その設定をしっかりと生かしきる筆力、構成力も素晴らしかったです。

眞白の、真っ直ぐで自分より他人を優先してしまう人間性というか、キャラクター性も、この作品にはもうこれしかないんじゃないかと思えるほどに完璧だったように感じます。

話は連作短編の形式で、どの話もテーマを一貫させつつ、異なる人間の"死にたい"や"生きていたくない"、"生きる理由がわからない"が描かれています。

個人的には『その時、彼は勇者になった』が一番好きです。他のものに比べると楽しくて優しい話なのですが……最後は泣きました。

また、この作品は眞白の成長の話でもあり、その部分に関しては、高坂先生がキーパーソンでした。
他の章と少し違った書かれ方をされている『天秤』で、それが強く出ています。

作品内には書かれていませんが、眞白に関わって"生きる"ことを選んだ人たちがたどり着いた未来は、きっと後悔のない、素晴らしいものになっていると、私は確信しています。

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