異世界を脅かす元凶は、「トイレ」にあった?

 家のトイレを新調したら、押しボタンがすべて「転生ボタン」になっていて、家族が家ごと異世界に移転してしまった。トイレ会社の陰謀か? 
 異世界では国境を接する国が人魔という化け物を使って、転生先の国を危険に晒していた。そこで、息子と父は人魔退治の遠征に連れて行かれてしまう。意気消沈する家族だったが、生きていくには稼がなければならない。吹奏楽部の娘は国立の楽団に入り、キルトづくりが趣味の祖母は王室に先生として招かれる。祖父は畑に生きがいを見出し、母は店で働く。それぞれが自分の現世のスキルを活かして、異世界に適用しながらも、少しずつ異世界や人魔の情報を得ていく姿が頼もしい。
 異世界には黄泉の国から、様々なものが流れ着くらしい。そしてそれらは、日本的な物らしい。
 一転、物語の舞台は、川で用を足すムラ的社会に移る。一人の男が父に反感を覚え、藁を父親に見立てて川に流す。すると、家から忽然と父が消えた。人に見立てて川に流す行為は、禁忌だったのだ。男はムラから疎外され、村を憎むようになっていく。そして男は……。
 舞台は異世界に戻り、人魔に襲われた父親は病院で監禁されていた。父親は病院からの脱出を企てる。一方の息子も、遠征から抜け出して、家を目指す。果たして、一家は再び家族に戻れるのか?

 徐々に明らかになっていく異世界とトイレの関わり。
 異世界に繋がっているのは、何も井戸や鏡だけではない。
 そして転生した家の跡地にはある物が残され、トイレ会社の目的ともつながっているようで……。
 様々な謎が残され、それでも解決に向けて次々と回収される伏線が見事。
 奇抜なアイディアながら、ミステリー調の異世界ファンタジー。

 是非、御一読下さい。

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