日常は大まかな無関心と仄かな優しさで成り立つ

東北の片田舎、夏の原風景のような一軒家で同居する、片付けができない叔父と大学生の甥の日常には、常に怪異の影がちらつく。

悪人が入ると災いの起こる蔵、見る者ごとに姿を変える佳人、ロバのような足跡を残す見てはいけない何か……。ひとならざるものとの共存は「そういうものだ」という無関心で成り立つ。それは、理解不能な怪異に遭遇しつつ淡々と生きる叔父と、呆れながらもついていく甥との共同生活にも重なる。その関係は決して冷淡なものではなく、過干渉を良しとしない誠実さと、理解できないものはそのままに尊重する仄かな情が根底にあることが伺える。

本作はホラーだが、禍々しくひとを脅かすおぞましさはなく、怪異があっても変わらない匂いたつほどリアルな情感で浮かぶ東北の日常生活が一番の魅力だ。

真夏でも寒々しい影が差す東北の奥地で、壁一枚を隔てつつ、つかずはずれずの距離で暮らす叔父と甥。冷たさと温かさの配分がちょうどいい、緩慢で退廃的で良質な短編連作ホラーだ。


(「ホラー×〇〇」4選/文=木古おうみ)

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