第9話
『リポップしてないでござる』
なんでも『ゲーム』のなかではモンスターをどれだけ倒しても、翌日になったら再び出現するようになるらしい。
そんなわけないだろう、と僕は思うけど。
タナカにとっては、かなり予想外だったようだ。
そういうわけで、昨日壊滅させてしまった『ゴブリン道場』跡地に来ています。
目の前には、単なる荒野しかありません。
あと、そのままになってる防柵とか、テントの残骸ぐらいかな……。
数日前まではゴブリン駐屯地だったはずなのに、もはや見る影もない。
『次は、オーク道場か、ゴブリン道場・上ぐらいかなぁ』
タナカが、次の狩場を提案してくる。
どちらもそんなに敵の強度に差がないらしい。
単体では強いけど組織的な動きができないオークの群れと、組織的に動けるけど単体で弱いゴブリンの群れ。
どっちも一長一短ある。
正直、話を聞く限りではどちらでも良いように思ってしまった。
「それだと、『ゴブリン道場・上』かなぁ」
対集団の戦闘経験を積める。
それに、ゴブリンは装備も売れるので、金策できることも大きい。
ただ、『上』というのが気になるところだけど。
-------------------------
「えっ、これマジ……」
タナカの案内に沿って、ゴブリン駐屯地から更に奥に進むと、そこには軍事要塞がそびえたっていた。
巨大な城壁があり、壁の上を定期的な見回りをしている。
城門の近くには、歩哨が十匹ほど警戒しており、隙を狙って攻め入ることも難しそうだ。
見張り櫓に歩兵も立っている。
正直、城門の突破に至るまでに発見されて、ゴブリンに包囲されるイメージしか描けない。
この軍事要塞の中には、雑魚ゴブリンから進化した個体ばかり詰めているらしい。『ゴブリン道場』に比べて兵の質が上がっているということならば、なおさらのこと難攻不落といった印象を抱いてしまう。
「これは、さすがに攻め手がないように思うけど」
『まあ、そこは……。物理でゴリ押しすれば大丈夫。たぶん』
------------------------
『みんな、丸太は持ったか!』
「みんなって、誰のこと?僕しかいないんだけど……」
タナカの作戦は簡単なものだった。
丸太を持って、周囲の歩哨を巻き込みながら城門に突撃する。
城門に何度も勢いをつけて丸太をぶつければ、いかに頑丈な城門であってもそのうち壊れる。
……というものだった。
いや、たしかに城門の鍵を入手するのも大変だし、城門の前の歩哨にどうせ見つかるのかもしれんけど……。
あまりにも大雑把すぎて、ぐうの音も出ない。
だが、他に手はないのかもしれない。
僕が黒魔導士とかだったら、遠方から巨大魔法で攻撃をしたりできるのだろうけど、しょせんは白魔導士。
自分を回復しながら肉弾戦をするぐらいしかできないのだ。
タイマン性能を追求するのが、白魔導士のはずだ。
僕は、丸太を構えた。
------------------------
やるんじゃなかった……。
僕は、いま軍事要塞から遠く離れた荒野に座り込んでいる。
久しぶりに本気で逃亡しました。
歩哨を巻き込みながら丸太で突撃したものの、城門は多少揺らぐぐらいだった。
すぐに警笛が鳴らされ、城門のなかで兵隊が騒ぎだしたのが分かった。
なので、僕は、丸太に巻き込まれて死んだ青いゴブリンの死骸や装備を《インベントリ》に入れて、慌てて、逃げてきたというわけだ。
突如、突撃してきた丸太に驚愕し、軍事要塞が蜂の巣をつついたように大騒ぎになっていたのが救いか。
『ゴブリン道場・上』の攻略には時間がかかりそうだ。
僕はそう思った。
-----------------------
その後、ひげ面のおっさんの店に顔を出したら、今日は茶髪の受付嬢がひげ面のおっさんと一緒にいた。
なんでも、ひげ面のおっさん一人では事務が追い付かなくて、夜勤にシフトを組んだとか。
ひげ面のおっさん(たぶん上司)が仕事できないから、夜勤にヘルプで入るとか……。
稀にみるクソ職場だな。
将来、こんな職場には就職したくないです。
僕がそんなことを思いながら、茶髪の受付嬢を見ていると、彼女は僕にニコリと笑いかけてきた。
とても綺麗なお姉さんの笑顔なので、僕は照れ隠しに下を向いてしまう。
「昨日分の精算になります」
彼女はそう言うと、カウンターの上に革袋を十個ほど並べた。あと、食べたらステータスを上げることのできる種も数個並べる。
精算金とレアドロップ品ということだろう。
僕は灰色のカードを彼女に渡すと、検めもせずに、それらを《インベントリ》に突っ込む。
どうせ相場は分からないのだから、金額を確認をしてもしょうがないし、種はクロエと二人でおやつ代わりに食べるだけだ。
僕が革袋を《インベントリ》に入れ終わると、受付嬢は銀色のカードを渡してきた。
どうやら灰色のカードは卒業みたいだ。
僕は無言でそれを受け取ると、促されるままに、奥の部屋に入った。
奥の部屋にいる職員さんは、二人から五人に増えていた。
僕はどう挨拶すればいいのかわからなかったので、無言で会釈すると《インベントリ》から、青いゴブリンの死骸や装備を取り出した。
「おおっ……」
なぜか吃驚している。
今日の獲物は十匹に満たないので、数の少なさがショックだったのだろう。
そりゃ五人も夜勤で集めたのに、納品数が少ないと悲しくなるよね。
だから、僕は、不良在庫になっていた魔蜂や血犬の死骸を大量に追加で納品したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます