脳筋白魔導士は勇者パーティーの夢をみるか

テリードリーム

第1話

「おーい、勇者ごっこするぞー」

「今すぐ行く!」

幼馴染のクロエから誘われた僕は、いつものようにその呼びかけに応じた。

部屋の壁に立てかけてある木刀を掴むと、家から飛び出した。

玄関のすぐそばにいた彼女は、家から出てきた僕に笑いかけると、ついてくるように促す。

彼女の天真爛漫な笑顔に不意を打たれた僕は、顔が赤くなっていることがバレないように俯きながら、その後をついていく。


家から5分ほど歩いたところにある広場につくと、彼女は手に持っていた木刀を構えて、僕にも構えさせる。

もう、ここ何年か毎日続けている光景だ。

「じゃあ、いくぞー!」

彼女がその構えから木刀を前に繰り出してくるが、僕は受けるのに必死だ。

全身のバネと天性のセンスに基づく剣撃に、貧弱な僕の腕力では耐えられるわけもなく……。

数合目にして、もはや追い込まれてしまっていた。


いつもなら、これぐらいになると彼女は手加減をしてくれるんだけど。

「これが勇者の新技だ!」

この日に限って、彼女は気まぐれを起こしたらしく、全身の力を込めて振り下ろしてきた。

「ちょ……、それはまずい……!!」


斬。


たとえ六歳の勇者といえど、《スマッシュ》が込められた斬撃ともなれば。

到底、六歳の白魔導士の腕力では耐えられるわけがない。ましてや、得物は木刀だ。


バキッ。

「あっ……」

クロエがその真っ黒な瞳を大きく開いた。


僕の握っていた木刀は、あえなく嫌な音を立てて折れてしまい。

彼女の斬撃を僕は脳天で受けることになった。


その瞬間、目の前に強烈な火花が散って、僕は意識を失った。


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ううっ……。

まだ頭が痛む。


僕が目を覚ますと、そこは見たこともない白い空間だった。

「はぁ……?!」

僕があたりを見回すと、ちょうど真ん前に、白い服を着たとても美人な女性が立っていた。

流れるような金髪に、透き通るような碧眼。精巧な装飾を施した白衣をまとったその姿は、教会で見た女神像の一つを思い起こさせた。

「ここは一体……」

僕が話かけると、女神様(?)は眉をひそめ、表情を曇らせた。

「まことに申し訳ありません。本来ならば、貴方は死ぬべき運命になかったのですが《機械音で聞き取れず》の結果、その命を散らせてしまいました」


何を言っているのか理解できなかった僕は聞き返した。

「いや、そんなことを言われても……」

「ご納得できないでしょうが、起こってしまったことはしょうがありません」

「しょうがないとか!僕は死んじゃったんですよ!」


僕が抗議をすると、露骨に嫌そうな顔をした。このまま強引に話を進めたかったのだろう。

きっとこの女神様(?)はロクでもない人だ。そうに違いない。

「このままでは、貴方の命は失われてしまい、運命から逸脱した未来へと進むことになります」

「はぁ……」

「そのために、ここに用意した《異世界人の魂》を融合し、貴方には復活をしていただこうと思います!」

そういうと、彼女は右手に青い霊魂のようなものを取り出した。

それって、ひょっとして《異世界人の魂》ってやつですかね?


「嫌です」


女神様(?)の申し出を速攻で却下した。

恐れおおいと思われるかもしれないが、あまりにも身勝手すぎる。

第一、そんな誰ともしれない魂と融合されるとか……。

この条件で応諾してもらえるとか思っているんですかね?


「まぁ、そうおっしゃらずに」

彼女がにじりよってくる。同じ速度で僕は後ずさる。

「この事故がバレると私も神界での立場が危うくなるのですよ」

「そんなの知りません」

「さぼってマイ●クラフトをしていたら、まさか運命のキーパーソンが死んでいたとか。そんなの上司に報告できるわけがありません」

いや、普通に上司に報告をして、対処法を考えるのが健全な組織じゃないですかね?


「だからこそ、この異世界で死にそうだった魂を足すことで、うまいこと隠蔽をしてやりすごしたいわけです」

事故をパワープレイで隠蔽してもロクなことにならないような……。

恥の上塗りみたいになってるし、時間が経過してから上司に発覚すると、上司の責任問題に発展しそうな気がする。

どう見てもヤバそうな提案だ。


「申し訳ありませんが、今回のお申し出にはお断りをさせていただきます。今回の選考結果についてですが、採用チーム全員で慎重に検討を重ねたところ、残念ですが採用を見送らさせていただくこととなりました。これからの益々のご発展を、心よりお祈り申し上げ……」

僕はとっさにお祈りメールの文例で断ろうとしたが、女神様(?)からは逃げられなかった。

「だまれ!私のボーナスのため!私はここで査定を減らされるわけにはいかんのじゃぁあああ!!」

そういうと、女神様(?)は右手に持つ青い霊魂を僕の胸のなかに突っ込んできた。


ぐあぁああああああああああああああああああああああ。


僕の中に別の何かが広がっていく。

気持ち悪い。

僕が作り替えられてしまうような恐怖にとらわれ、胸を押さえるが、どんどん広がり……、僕の意識が薄れていく。

僕が僕でなくなってしまうこと、それだけは理解できた。


「それでは。定められた運命の実現に向けて鋭意ご尽力ください!」

女神様(?)の声が遠くでかすかに聞こえて……。

そして、再び僕は意識を失った。

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