第7話

クロエに指輪を渡してから半年が経った。


日夜トレーニングに明け暮れた結果、僕は、殺人熊をワンパンで屠れるようになっていた。

首から上が吹き飛んだ死骸を《インベントリ》に入れ終わると、タナカが声をかけてきた。


『そろそろ狩場を変えるか』

「うん。いいよ」


『ツーク山』のモンスターを難なく狩れるようになり、僕は飽きがきていた。

即座に、僕は同意した。


「それで、次はどこに行くの?」

『ゴブリン道場かなぁ』


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タナカ曰く、『ゴブリン道場』には無数のゴブリンがいる場所だそうだ。

数をこなして金策ができるので、お勧めらしい。


『ツーク山』を踏破すると、その先にはゴブリンの大群が駐屯していた。

月明かりに照らされて、ゴブリンが何匹か動いているのが分かった。


いや、どう考えても、これって軍隊じゃん。

武器とか普通にもってるし。

テントっぽいものが多数見えるし。

防柵みたいなので囲まれてるし。


「いや、これは流石に……」

『最初は、警戒している歩哨ぐらいを狩ってればいいと思う。仲間を呼ばれたら逃げたらいいし』


うーん。

信用ならないけど……。

実際、『ツーク山』の血犬のときに酷い目にあったし。

そんな簡単な話に思えないけど。


僕が迷っていると、タナカは言ってきた。


『クロエと結婚できない人生を歩みたいんなら、別に構わんけど。チラッチラッ』


くそっ!

それを言われると、やらざるをえない。

どのみち僕には他に選択肢はないのだ。


戦って強くなるしか道はない。

僕は覚悟を決めた。




まさか、これが魔王軍との長きにわたる戦いの始まりになるとは、当時の僕は知る由もなかった。


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夜闇に紛れて、気配と足音を消しながら、ゴブリンの駐屯地に近づく。

草陰に隠れながら、防柵の間に立つ二匹の歩哨の様子をうかがう。


モンスターのくせに練度が高いのか、あまり隙がない。

僕は下に落ちている石を拾うと、歩哨の近くの木に投げた。


そして、その石がたてた物音に、歩哨が視線を向けた瞬間。


僕は足音を立てずに一気に距離を詰めると、二匹の首を両手で握りつぶした。


「ギィ……」

声にもならないような音を立てて息絶えたそいつらを即座に《インベントリ》に入れると、僕は背をかがめながら、駐屯地のなかに入っていった。


ゴブリン達は夜行性じゃないようだ。

すっかり寝静まっている。


僕はゆっくりと歩き、手近なテントの中を見てみた。

そこには、ゴブリンが三匹ほど寝ていた。



握。


僕は、ゴブリンの首を砕く。

そして、息の根を止めたゴブリンを《インベントリ》に入れる。

テントのなかに落ちているゴブリンの武器や防具を《インベントリ》に入れていく。

その流れ作業だ。

物音を立てずに作業できているからか、一向に邪魔をされない。


僕は、その日、十個ぐらいのテントで同じことを繰り返し、駐屯地を後にした。


あまり長くやっていると見つかってしまうかもしれないし。

こちらの集中力きつくなってきた。今日の狩場は初めてだったので、気疲れが半端ない。


駐屯地を出てほどなくすると、タナカからは次の指示が出た。

『街に行って、モンスターを売ろうか』

「いやいや、こんな夜遅くに行っても、店やってないでしょ……」


親にバレないように、夜に家を抜け出して、モンスターを狩っているのだ。

まさに深夜という時間帯で、店が開いているわけがない。


『いや、その辺は大丈夫だ』

「はぁ……」


僕は、渋々、タナカのいう街に向かうことにした。


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街について、中心のあたりに位置する店に向かう。

大きな鷹を象った看板を掲げた店のドアを、僕はノックしてから開けた。


店に入ると、奥にあるカウンターに座るひげ面のおじさんが、こちらを胡乱げな表情で見つめ返してきた。


「こんな夜分にすみません」

「はぁ……なんのようだ?」

「実は、モンスターを倒したので、買い取ってもらいたくて」

「……見せてみろ、奥に行くぞ……」


ひげ面のおじさんに案内され、僕は奥の部屋に入った。

かなり大きな部屋で、壁には何本もの大きな包丁がかけられている。


「じゃぁ、その辺でいいぞ」


土間を顎で示すので、僕はそこに《インベントリ》から、今日倒したゴブリン三十五匹を出した。

それに、そいつらが持っていた武器や防具も一緒に出す。

白魔導士の僕が持っていても、しょうがないからね。


「はっ・・・?」

ひげ面のおじさんは、目の前の光景が信じられないような表情をした。


「すみません。ここに持ってくれば、お金がもらえると聞いたので……」

僕がそういうと、ひげ面のおじさんは急にまじめな表情になる。

「いまは夜で職員がいないから、査定や解体は明日になるがいいか?」

「良いですよ。また明日の夜に来ます。今日はもうそんなに時間もないので」


そのあと、ひげ面のおじさんから木製の預かり証を受け取ると、僕はその店を後にして、帰宅した。



その店が、冒険者ギルドと呼ばれる施設であることを知ったのは、それから随分と先のことだった。

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