地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王子様と一緒に魔女討伐に抜擢される
buchi
第1話 幼い婚約者同志
ローザは、ウォルバート伯爵家の長女だった。
一つ下に妹のヴァイオレットがいる。
二人は銀の姉と金の妹と呼ばれていて、評判の美人姉妹だった。
「二人とも本当にかわいい顔をしている」
父の伯爵は目を細めた。
ローザは長いアッシュブロンドの髪で、青いケシの花のような色の目をしていた。
いつもニコニコしているのでかわいらしい印象だが、顔立ちは整っていて、鼻と顎の線はむしろシャープだ。
だが、目立つのは妹のヴァイオレットの方だった。キラキラした金髪がそれはそれは派手で人目を引いた。その上、彼女の方が活発で社交的だった。
「ローザは、本当に注意散漫で、ぼんやりしているんですよ。本は好きみたいだけど、読み出したら今度は没頭してしまって、声をかけても気が付かないくらい」
「かわいいじゃないか」
男親は本当にダメだと伯爵夫人はため息をついた。
貴族の夫人ともなれば、それなりに社交もある。人見知りせず、活発なヴァイオレットはとにかく、あのローザにそれができるかどうか。
「ケネスに申し訳ないわ」
夫人の顔が曇った。ローザには婚約者がいた。
夫人の従姉妹で、同い年でとても仲良しのレミントン伯爵夫人の一人息子ケネスだ。
そんなに早く婚約者を決めることはないじゃないかと、伯爵は反対したのだが、本当に頃合いよく、半年違いくらいで男の子と女の子が生まれたことに運命を感じたのだ。
ごく親しい家同士の冗談みたいな婚約で、正式のものでもなかったから、伯爵はレミントン家の当主とその話をしたこともなかった。
「正式の婚約じゃないし、学校で新しいご縁が決まるかもしれない。それに……」
そこまで言いかけて、伯爵はケネスの顔を思い出した。
おとなしそうな少年だったが、目鼻立ちは整い、学業に秀で、その上武術もなかなかの腕前だと言われていた。
その一方、ローザはと言えば、妻の言い草ではないが、人より優れているのはそのかわいらしい容貌だけだった。
レミントン家は名門だった。その嫡男ともなればよりどりみどりだ。ケネスに愛想をつかされたらどうしよう……。
「どちらの娘が結婚しても構わないもの」
親たちはローザが食堂の隣の部屋にいたことに気付いていなかった。
ローザは、ぼんやりと両親の話を聞いていた。
生まれた時期が近かったせいで、ローザとレミントン伯爵家の嫡子との婚約が決まってしまったのだが、今となってはそれが正しかったのかどうか。
レミントン家には子どもがケネスしかおらず、とても大事にされていた。
伯爵家の嫡子ともなれば、やはり競争率は高い。ましてやレミントン家は金持ちだった。
親同士が決めた婚約なので、ローザは意見を言うことはなかったし、ケネスのことも嫌いではなかった。
だが、最近、ケネスがレミントン夫人に連れられて遊びに来ると、妹のヴァイオレットが付きまとって離れない。
自然、おとなしくて「ぼんやりしている」ローザは、取り残されてしまい、妹がケネスの手を引っ張って庭へ連れていく様子を黙って目で追っているだけになってしまう。
仕方がないのでローザは頃合いを見て、自室に引き取ることにしていた。
「ケネス! この花を見て。とてもきれいだわ。ねえ、私に一輪取ってくださらない?」
切れ切れに、はしゃぐ妹の声がする。
ケネスの声はここまで聞こえない。
結局、彼らが帰るまで、ローザはケネスとほとんど顔も合わさなかった。
夜、ヴァイオレットは姉に向かって宣言した。
「ケネスはローザにはもったいないわ」
ローザは黙っていた。
両親はちょっと焦ったようだった。
「ヴァイオレット、それはケネスの意見も聞かないと」
「そうよ。レミントン伯爵家の判断もあるわ」
確か、ローザがはケネスの婚約者で確定していたはずだが、話が妹の方に微妙にずれていく。
「だって、お姉様はそもそも地味だし、全然ケネスの相手をしないじゃないの。あれじゃ嫌われているとケネスが思ってしまうわ」
「そうね。それはローザのよくないところよね」
母が認めた。
よくないところ……と言われても、妹の方が素早いのである。
強引と言ってもいい。
ローザとしては、ケネスを玄関先でヴァイオレットと取り合いするなんて、どう考えてもみっともないとしか思えなかった。
年下のヴァイオレットが、子どもらしく騒いで、無邪気にケネスの手を取って独り占めする姿は、かわいらしく見えるかもしれない。
だが、二人の娘が玄関先でケネスの取り合いを始めたら? 見苦しいに違いない。
せめて姉の自分くらいは、そんな様子を見せず、落ち着いて優雅に微笑んでいた方がいいのでは?などと判断した自分は「良くない」ことにされてしまったのか。
「とはいえ、この婚約は、母上同士が話の中で決めただけのもので、正式ではないからね」
父が釘をさす。
「そうね。貴族の結婚は最近では事情がずいぶん変わりましたものね」
母がため息交じりに認めた。
「フェアラム学園に通ってみないとわかりませんわ。別のご縁が生まれるかもしれませんもの」
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