第11話 イラっとさせられた男たちが勝手に復讐に走った

男性三人は、せっかくローザをダンスの練習のクラスに誘うのに成功したのに、どこかの恐ろしく品のない女のせいで、全部パアになった。


「淫乱て? 誰がそんな噂を?」


ジョアンナの流れるような話をぶった切ってルイが聞いた。


「まあ、そんなはしたないこと、口にできませんわ」


ジョアンナは、いかにもしおらしく、媚びるような目つきで答えた。


「誰から聞いたかを話すことは、はしたないことなのかね?」


ルイが静かな調子で聞いた。


「そんなお話より、今度、一緒に行く親善パーティのお話を……」


ジョアンナはにっこり微笑んで見上げるように三人に言った。


「誰が一緒に行くって言った?」


三人は席を立った。



*****



ジョアンナを紹介されたケネスは困惑した。


「でも、女の友達を作れと言ったのはあなたですわ」


ローザは困ったような顔で言った。


「今後は、必ずお昼の時にはジョアンナに同席をお願いしようと思いますの」


正直、ケネスが興味を持っているのは、ローザだけだ。


だから、必ず女友達との同席を求めたいのは、“自分以外の男“と一緒の時だ。

自分と一緒の時は、二人きりで大いに結構だった。

それが、文字通り、自分も含めた男全員に適用されてしまった。


ケネスはそう言う意味じゃないとうまく説明することが出来なかった。


なんだってローザは自分をジョアンナ嬢に無理矢理紹介したんだろう。


おまけにジョアンナはまったく趣味ではなかった。

ケネスの友人に噂話を好む人間は少なかったから、ローザが男狂いだと言う噂をジョアンナ嬢から聞かされてケネスは非常に驚いて、あれこれジョアンナ嬢を問いただした。


しかし、ジョアンナ嬢は、それは本人に話すことを止められていますからと、いかにも殊勝そうに繰り返すばかりでらちがあかない。


代わりにケネスのことをいろいろと聞いてきた。さらにこれ見よがしに胸の開いたドレスを着て来たり、何もないところでつまずいてケネスにしがみついてきた。


一度、ローザの目の前で、つまずいてケネスに抱きついてきたことがある。


ある意味、ローザ並みに鈍いケネスかも知れなかったが、これはこたえた。思わず、ローザの方を見たが、気が付かない様子だったのでホッとした。


だが、ジョアンナに「ありがとうございます。お礼に今度、王都で良い店がありますので、ご一緒しませんか」と耳元で囁かれた時にはゾッとした。


ケネスは、場所がみんなが注目している食堂だったが、大声で怒鳴った。


「あなたと一緒に出掛けたら、私の評判が台無しになります。絶対に行きません」



**********



ケネスは、あの時、同席していたジョアンナの取り巻きに事情聴取することにした。


「いや、僕は、ジョアンナ嬢から聞いたんです」


「他からは? それから具体的な内容は?」


「ええと、なんでも、教科書を隠されたり、身分が劣ることを何回も言われたり、一度は通りすがりに蹴飛ばされたと……」


ケネスはびっくりした。


「ジョアンナ嬢自らが、ローザにそんな真似をされたと言ったのか? それなのに、友人だと言われて受け入れるのは変だな?」


「ローザ嬢はまず謝罪すべきだと思いますね」


そいつは気取って言った。


腹が立ったが、真相を突き止めるのが先だと腹の虫を抑えて、ケネスはさらに聞いた。


「男狂いと言う噂は、誰から聞いたのだ?」


ケネスはその言葉をローザに使うのは嫌だったが尋ねた。



「それは僕は知りません。誰か、あの女にたぶらかされた男がいるんでしょうね」


どこぞの地方貴族の、貧相な体つきのジョアンナの取り巻きが偉そうに答えた。


ケネスは殴りたいのを必死で我慢して、ついに言った。


「あの女だなんて、お前は誰のことを言ってるんだ! 失礼にもほどがある。ウォルバート家は由緒ある伯爵家で、ローザはジョアンナ嬢とはくらべものにもならないくらい美人じゃないか。男をたぶらかすなんて考えられない。誰かが嘘を言ってるんだ。君は、ローザに声をかけられたと言う男性を一人でも知ってるのか?」


ジョアンナ嬢の取り巻きは、ケネスのいきなりの剣幕にびっくりしたようだった。


「具体的な内容は知りません。ジョアンナ嬢がそう言っただけだから」


ケネスはジョアンナを徹底的に忌避した。


別にいいのだ。ローザなら、食堂で会えなくても魔法学の授業で会える。


ただし、彼もこっそり裏で復讐にいそしんだ。ジョアンナ嬢の真実をしゃべって歩いたところで、何の罪にも当たらないだろう。

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