第13話 ホンモノの魔女
「で、魔法学って、どんなだったの?」
彼女たちの学年で魔法学を取ることになった生徒はわずかで、みんなが好奇心でいっぱいだった。
それはナタリーもキャサリンも一緒で、一生懸命、ローザに聞いた。
「それがもう、眠くて眠くて……」
ローザも、まずかったと思ってはいた。
初めての授業、初めての教室、最初はちゃんとしてた。
ケネスが迎えにきてくれて、二人で話をしながら教室まできたのだ。
しかし、教室に入った途端、眠気が押し寄せてきた。
ことに座ったらダメだった。隣のケネスがちょこちょこ突っついて起きるよう促してくれたが、起きていられない。
自分でも、いくらなんでも異常だと思ったけど、とにかく眠い。ローゼンマイヤー先生も他の生徒も呆れているのがわかった。かっこ悪すぎる。
「また、そんなこと言って……」
「結局、ケネスに起こされるまで寝てたみたい」
二人はちょっと黙っていたが、とうとう笑い出した。
「あの箱も間違えることがあるのね」
「うーん。多分、私、魔法力って全然ないんじゃないかな……」
*********
その頃、学校から少し離れた贅沢な造りの館に、数人の人間が集まっていた。
そこは迎賓館と呼ばれていた。
学校が高貴な客、つまり王族を行事の際に迎え入れる時のために建てられた館で、高貴な客を泊めたりもてなしたりするための建物だったので、中も外も豪勢だった。生徒などは、中に入ることも許されない場所だった。
だが、今、豪華なソファの真ん中に偉そうにふんぞり返って座っているのは、アレク様と呼ばれていた生徒だった。
エドワードは座らず、ソファの後ろに立っていた。目立つ格好のローゼンマイヤー先生は、アレクの向かいの椅子に遠慮して浅く腰かけていた。
「ローザ・ウォルバート嬢の魔法学の授業は……」
ローゼンマイヤー先生は少々緊張した様子で切り出したが、アレクにさえぎられた。
「彼女に魔法力はなかったのだろう?」
軽い調子で、アレクはからかうように言った。
「だって、この私が何も感じなかったのだからな」
「アレク様は、本当に何も感じられなかったのですか?」
ローゼンマイヤー先生は尋ねた。
「全然なにも。あれはゼロだ。ちょっと接触しただけだがな。だから、魔法学を取ると聞いた時は驚いた」
「アレク様が何も感じ取れないのなら、あの箱が間違っていたと言うことでしょうか?」
慎重に言葉を選ぶようにエドワードが言った。
「そりゃそうだろう。あんなダメそうな令嬢が魔女だなんて信じられない」
「違います。アレク殿下」
「ローゼンマイヤー先生、殿下と言ってはいけません。誰かに聞かれると面倒なので」
エドワードが注意した。
「警備の者たちは、聞こえないよう遠ざけてあります。なにしろローザ・ウォルバート嬢の話は最も機密に属する話です」
「あの娘が機密なの?」
アレクは面白そうに薄青い瞳を大きく見開いたが、側近のエドワードはしかめ面をした。
「ローザ・ウォルバートは魔女です。膨大な魔法量です」
「まさか。魔法学の教室では寝てばかりいたのに?」
アレクは微笑んだ。その時の眠そうなローザの姿を思い出したのだ。
「この20年間、箱が間違えたことは一度もありません。あの娘は魔法の量が多すぎるのです。だから、あの教室では寝るしかなかったのですよ」
アレクもエドワードも怪訝な顔をした。
「あの教室には白の魔女よけの品々が数多く置いてあるのです。彼女はその影響をモロに受けているのでしょう。寝るしかありません。魔法量が多いほど眠くなる」
「どういう意味なんだ?」
「殿下は物に干渉する力をお持ちです。風を起こしたり、水を沸騰させる」
アレクはうなずいた。
「殿下の魔法は黒の魔法。希少な力です。ローザ・ウォルバートの持つ力は白の魔法。人の心に干渉する魔法です。人の心に影響を及ぼすわけだから、殿下の魔法のように、目に見えるものではない」
「要は、大したことないってことだ」
「そんなことはありません。白の魔法ほど恐ろしいものはありません。白の魔法使いは、人心を惑わせます。他人を狂気に陥れたり、幸福感に満ち溢れさせたり、不安に突き落としたりできる。白の魔女に狙われた者は、自分で自分の感情が制御できなくなる」
ちょっとアレクとエドワードは、あっけに取られたようだった。
「だけど、そんな話は聞いたこともありませんよ」
エドワードが言った。
「他人に、そこまで大きな影響を与えることができるほどの魔女がいないからです」
ローゼンマイヤー先生は、古い黒い袋に手を突っ込むと、紙を一枚取り出した。
「これがローザ・ウォルバートの検査結果です」
『魔法量 莫大(測定不可)
タイプ ほぼ白
方向性 不明
特技 美人』
アレクとエドワードは、読んではみたものの信じがたいと言う顔をした。
「大体、美人ってなんなんだ?」
「箱の感想です」
アレクとエドワードは微妙な顔をした。
「ええと、アレク様の時はちゃんと美男子と書かれていました。……エドワード様の時は、魔力がなかったので、感想もなしです。検査結果がなかったですから」
「……そうですか」
なんとなく沈黙がおりたが、ローゼンマイヤー先生は、魔法力を持つ人間はわずかですと説明を続けた。
「なぜ、彼女が初めて私に会った時、他の誰も注目しない私の帽子に気を取られたのか、わかりますか?」
ローゼンマイヤー先生が聞いた。
「いや?」
「この帽子の持つ魔法に引っかかったのですよ」
それはいかにも魔法使いの帽子らしい、少し古くてクタッとしていて、キラキラした偽物の宝石やガラスの飾り、スパンコールなどがでたらめに縫い付けられていた。
「この帽子の魔法に気がつく者は少ない。私がここに赴任してきて以来、この帽子をステキだなんて言ったのは彼女が初めてです」
「その帽子には、どんな魔法があると言うんだ?」
「人に向けられる魔法、人に干渉する魔法に反応します」
「人に干渉する魔法?」
「そう。白の魔法。彼女は本物です。それも何百年に一人生まれるか生まれないかのレベルの」
コホンと咳払いをして、遠慮がちにエドワードが言葉をはさんだ。
「ローゼンマイヤー先生、もし、私の覚え違いでなければ、人に干渉する魔法とは……」
「そう。魔女狩りという言葉をご存知ですか?」
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