第3話 入学式と魔法学のテスト
「ローザ!」
入学の手続きでごった返している食堂で、ローザは声をかけられた。
ケネスだった。
知った顔に思わずローザの顔は緩んだ。
「ケネス!」
あっという間にケネスはローザのところへやって来た。
久しぶりに会った彼は背が伸びて、そしてローザの顔を見て本当にうれしそうだった。
改めてケネスを見て、そして、周りの男子生徒と比べてみて、妹がケネスに夢中な気持ちがわかった。
周りの男子生徒と比べて、彼は頭一つ抜けて背が高く、どこか品があった。美しい。雰囲気からして高位の貴族の子弟だとすぐわかる。
「君の寮の部屋番号、教えてよ。僕の部屋番号を言うから」
彼はローザの手を取った。手を取られるだなんて、思っていなかったローザは、思わず赤面した。
「あ、でも、みだりに人に教えないようにって、先生から注意されたの」
「だけど、何かプレゼントしたいときには、部屋番号がないと送れないんだよ。412番だね、オーケー、わかった」
ローザはかなり驚いた。
家では、ヴァイオレットが婚約者気取りだった。最近では、あまり二人で話をすることもなかったから、学園でケネスから声がかかるとは思わなかった。きっと会っても無視されるとばかり思っていた。
こんなことってあるんだろうか?
「じゃあ、入学式で!」
ケネスはニコニコして手を振って、男子寮の方に消えた。
「ねえ、今のかっこいい人、誰? 知り合い?」
栗色の髪がふさふさした大柄なナタリーと、逆に目立たない感じの小柄なキャサリンが聞いてきた。寮の部屋が隣同士だったので、一緒に部屋へ行くところだった。
「ええと、母の友達の息子さんなの」
正式な婚約者になるには、貴族の場合、王家に届けが要る。ローザとケネスはそこまで話が進んでいなかった。しかも、妹の婚約者に納まる可能性の方が高そうだ。説明がめんどくさい。しかし、誰の目にもケネスはかっこいいのか。
「きれいな顔の方ねえ」
小さい方の生徒、キャサリンがため息をついた。
******
入学式では全員が揃いのローブをまとう。
それは黒一色で、かかとまでの長さがあり、誰も彼も全く同じに見える。髪以外は。
ローザの長いアッシュブロンドの巻き毛は、とっても目立った。
もしかすると、スッゴク可愛いんじゃないかと、期待が高まる。入学式のあと、教室まで、顔をこっそりのぞきに来る者が大勢いた。
こういう場合、たいていが期待値の方が高すぎて、がっかりすることの方が多いのだが、ローザは違った。二度見したくなる美人だ。
いい意味で裏切られて、ちょっと胸キュンだ。しかも、目が合っても、すっと無視されるのだ。
「にらみつけて来るツンデレタイプとか、小悪魔系も捨てがたいが……」
この意味不明な対応は、これはこれでドキドキする。何を考えているんだろう。
ふつうはやたらに目線が合うわけだから、ここらで何かに気が付かないといけないのに、ローザは教室の片隅で乗馬クラブのことを考えていた。
「乗馬クラブには入りたいな。あと、授業は必須と選択があるけど、選択は何を取ろうかな?」
隣の部屋のナタリーは辛らつだが、姉御肌でなかなかの情報通だった。
「クラブより先にまず、科目の選択よ。魔法学だけは能力があれば強制だけど、魔法力なんか絶対ないから、この時間はフリーだと思っていいわ」
ナタリーは力説した。
「へー。そんな科目あるの。知らなかったわ」
知らないなんてダメじゃないと言った目つきでナタリーはローザを見たが、親切に教えてくれた。
「魔力なんて持っている人ほとんどいないから、知らなくて当たり前よね。その時間に何を入れる? 国史と古代語とどっちが単位を取りやすいのかしら?」
「ねえ、皆さま、乗馬のクラスがあるんですけど、誰か取る方いませんこと?」
黒髪美人が割り込んできた。アイリーンと言う名前の子爵家の令嬢だった。
「取りたいです!」
ローザが叫んだ。
「じゃあ、一緒に申し込みに行きましょうよ!」
二人は大いに盛り上がったが、その前に魔法力の検査があった。
何の力もご利益もなさそうな、ただの箱を通り抜けるだけで、検査はすぐ済んだ。年に数名しか魔法力の持ち主なんか見つからないらしい。
先生がなにか説明をしていたが、ローザはほとんど聞いていなかった。
ウマがローザを待っている。
家でも乗馬は楽しみだった。ヴァイオレットはウマに乗らない。
だが、ローザが驚愕したことに、翌日、彼女のところに金で縁取りされた立派な通知書が送られてきたのだった。
『魔法学のテストに合格しました。下記の通り授業を受けてください』
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