第8話 ダンスのレッスン 

女子寮前で待ち伏せされた話を聞かされたナタリーとキャサリンは、なぜかむっつりしていた。


「いや、要は、それは気を付けて帰ればいいだけだから」


ナタリーが言った。


「で、誰だって? 名前くらいは憶えているんでしょうね」


「それが……名前は教えてくれたんだけど、忘れちゃったの」


ナタリーはフーとため息をついた。こいつ、全員の名前を忘れてやがる。


「仕方がないわね。今度、どこかで会ったらどこの誰だかわかるでしょ。対応のしようもあるしね」


「で、何の用事だったの? ほかに話したことは?」


「それがね、ちょっとお話したいって言うのよ。話なんかないわ。初めて会った人だもの」


二人は余計ムッツリした。


「いいこと? ローザ、その人は男の人だったのよね」


ローザは必死になってうなずいた。


「あなたと話したかっただけだと思うのよ」


「なぜ?」


二人は再度ため息をついた。


「女の子とお話したかったんだと思うの」


ローザはナタリーとキャサリンの顔を見た。そして結論付けた。


「変態だったのね」


ナタリーは黙り、それから言った。


「違うわよ! 男の子はみんな女の子と話してみたい生き物なのよ!」


……そうなのか?


きれいな女の子と説明を付け加えなかったのは、ナタリーのせめてものプライドだった。


確かにあんたは美少女だけど、そして、真剣にビビっていることはわかるけど、ぼんやりもほどほどにしてほしいものだわ。最早あざといだけだよねと、聞かされた方は思った。

自分に次から次へと男子生徒から声がかかってきても、何かの種類の災難だと信じているらしい。




「そうだわ!」


いきなりローザは叫んだ。


「ナタリー、キャサリン、私と一緒にダンスのレッスンに行かない?」


「ダンスのレッスン?」


「そう! 親善パーティーに備えて!」


二人はためらった。


「でもね、私たち、ダンスは得意じゃないし、親善パーティーで踊るのは大体上級生ばかりよ」


「親善パーティーで踊るつもりはないけど、練習だけならいいじゃない。昼休みにその3人に声をかけられたの。ダンスの練習に行かないかって」


ナタリーとキャサリンには、男連中の下心が透けて見えるようだった。


親善パーティーでダンスを踊るのは、一年生にはちょっと度胸がいるが、練習ならいくらでも踊れる。


「私、ナタリーとキャサリンが一緒ならいくって言ったの。そしたら、それはいい、ぜひってフレッドが言ったの」


ローザは話を少しだけ盛った。


「ぜひ来て欲しいって」


「フレッドって、あの?」


「そう! なんだか知らないけど、国一番の大富豪よね。それにあとの人たちも、うなずいてたわ。あなた方が行かないなら、私も行かないって言ったの」


ナタリーが妙な顔をした。


「でもね、あなたは、そのダンスの練習の時間、魔法学があるでしょう。いけないわよ」


「ま、まあ! 知らなかったわ!」


自分のスケジュールじゃないかと突っ込みたいところを、ナタリーは我慢した。


「なーんだ。じゃあ、ダンスのレッスンはやめとくわ。でも、あなた方二人を彼らに紹介させてよ。ダメかしら?」


ナタリーとキャサリンは顔を見合わせた。

実は願ってもない話である。


「いいじゃない。知り合いになっておいても損はない人たちなんでしょ?」


二人は、ためらった。ありがたいが、敷居が高い話でもある。


だが、ローザは知り合いになってくれないと困るのだ。


「お願い。でないとあの人たちが、また来るかもしれないわ!」


「それ、結局、防波堤って言わない?」


ついにナタリーが折れた。


「今度は、私たちが、ジョアンナに何を言われるかわからないわ」


「大丈夫よ!」


ローザが言った。彼女は素晴らしいプランを思いついたのだ。


「私、ジョアンナも誘うから」


「え?!」

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