第5話 親善パーティとダンスのお誘い

彼らは親し気に彼女の周りに陣取った。


陣取られたローザは震え上がった。


「一人で食事なの?」


とても気軽に話しかけられた。


こんなものなのか? これでいいのか? 学園式? 自分の家で催されるパーティの流儀と全く異なるのだが?


「いつもは違いますのよ」


少し、震える声で返事した。男性、怖い。


だめだ。これは自分一人では太刀打ちできない。


「そ、そうだわ。今度、私の友達も紹介しますわ」


「それは、いいね!」


一番社交的そうなフレッドが、すぐ愛想よく言葉を返した。体つきががっちりした赤毛で、ちょっと押しがつ様相な印象を受けた。後で知ったことだったが金持ちの商人の子どもだった。


全員、キラキラした目をして、顔立ちの整った男子生徒だった。


ローザは同じクラスだったことに気が付いていなかったが、改めてよく見ると、灰色の目のルイは物憂げな口ぶりだが頭は切れそう、黒い目が印象的なオスカーはまっすぐな鋭い目をしていた。



「ねえ、入学早々だけど、親善パーティーがあるのは知ってる?」


ローザは素早く頭を働かせた。覚えていないと、またぼんやりだと言われるかもしれない。


入学式の二週間後くらいに、確かに親善パーティーは日程表に載っていた。


「ええ」


「君はダンスは踊れる?」


「ダンス……ですか?」


ローザはびっくりした。


「親善パーティーにダンスもあるんだよ」


フレッドが説明した。ローザは親善パーティーの中身まで、まだ読んでいなかった。


「だから、一年生にもダンスのレッスンがあるんだよ。一応、練習にいかない?」


「パーティでは踊らないといけないのでしょうか?」


ローザは不安になった。フレッドがにこやかに解説した。


「僕たちも踊るつもりはないんだ。ただ、練習のクラスには行かない?って話。どう? 練習なら気楽だし、後で役に立つかもしれないからさ」





「なんの話をしているの?」


突然声が降ってきた。


驚いたローザたちが振り返ると、ケネスが立っていた。


「ケネス……」


「ローザ、ダンスなんかまだ早くない?」


ケネスの少し不機嫌そうな声の調子に、ローザは引きつった。普段はとても穏やかな彼なのに。


「違うよ、ケネス。僕たちはダンスの練習のクラスの話をしてたんだよ」


ルイがさっと我に帰ると、ケネスに説明した。


「練習だけでもした方がいいよって。よい機会だからね」


ケネスは黙ってしばらく3人を見ていたが、自分も同じテーブルに座った。


なんだか居心地が悪い。

ローザはもじもじした。


それはローザの周りに陣取った3人も同じように感じたらしい。ケネスから、何か妙な威圧的な雰囲気が漂ってくる。


「それはそうだね」


沈黙ののち、ケネスはついにそう言った。


3人は、ちょっとホッとした様子だった。


「考えてなかったけど、確かにいい機会だね」


それからケネスはローザの方に向かって聞いた。


「僕も参加しようかな。ローザも参加する?」


「えーと、ナタリーたちが行くなら考えるわ」


「一緒に行こう。迎えに行くから」


ケネスは、なんだかおかしな雲行きに呆然としている3人組に向かって言い放った。


「僕たち、待ち合わせしてたんだ。それじゃ、また後で教室でね」



ま、待ち合わせ?


男子3名と当事者の女子1名は、度肝を抜かれた。


そうだったのか。知らなかった。


ローザが一番驚いた。忘れていたのかしらと、まず自分の記憶力を疑ったが、多分そのレベルなら覚えていると思う。


ただ、そう言われると男性3名はおずおずと退場せざるを得なかった。


「僕たち、知らなくて」


「言ってくれたら邪魔しなかったよ」


(そう言う場合は)皆さんにお知らせするべきなのでしょうけれど、私も知らなかったんです、とローザは、男性3人の背中に向かって言い訳したかったが、出来るわけがなかった。それに……



「ローザ」


ケネスは静かな声で始めた。


ローザはなんだか震え上がった。


「どうして、あの3人と話していたの?」


……どうしてって、向こうからやって来たのよ! 理由なんかわからないわ。私が悪いみたいに言われるのは、なんだかおかしいわ。


「私は一人でお昼を食べていたの。そしたら、あの三人が座りに来たの。それだけのことよ」


「……それはダメだ、ローザ」


諭すような口調でケネスは話し始めた。

なんでやねん。……みたいなことをローザは内心思った。


「どう言う意味? じゃあ、どんなふうに食べろと言うの?」


ローザはちょっと首をかしげ、唇をとがらせて、ケネスに尋ねた。言い返されると思わなかったのだろうか。なぜかケネスは少し赤くなって狼狽えた。


「ナタリーもキャサリンも時間が合わなかったのよ。私、遅くなっちゃって。だから、一人で食べてたの。時間がないから、見てちょうだい。サンドイッチだけよ?」


遅刻と宿題を忘れた件は、黙秘権行使だ。


ケネスは黙った。


何を言っているんだろう、ケネスは。ローザは本気で訳が分からないと思った。


「とにかく、出来るだけ他の女子と仲良くした方がいいよ」


だから、みんな仲良しよ。でも、たまたま……


だが、ケネスはスッと立ち上がると、その場を離れて食堂から出て行ってしまった。

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