冬があるからこそ、春は輝く。僕は冬を俟っている。

雪降る寒い朝。吹きっさらしの無人駅に佇む美しい女性。
通学のために駅に通う僕は、毎朝のようにその女性を見かける。
彼女は電車には乗らない。聞けば「春を俟っている」という。

白い着物。黒い髪。寒椿のような赤い唇。
彼女は季節が春に向かう様を短歌に詠む。知性と気品を感じさせる女性だ。
僕は彼女に恋心を抱くが……冬が終わり、やがて春がやってくる。

溜息のでるような美しい文章だ。五感の全てで堪能できる。
自然の移ろい。心の揺らぎ。僕の詠んだ歌が、切ない。

春を俟つ人は多くいても、冬を俟つ人は少ないのだろう。
けれども、冬を越してこその春なのだ。
冬の存在があるからこそ、春は待ち焦がれる。

この美しさ、静謐さに触れてほしい。
文句なしにお勧めの作品だ。(星みっつなんて、足りません)

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