或る英雄譚の後日談、または魔王に仕えた或る配下のその後について
原作は↓になります。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054902445453/episodes/1177354054902450260
今回より軽めの所感を最初に、細かい説明を本文の後に書くことにしました。
プロローグが短かったので二話目を修整しています。
脈絡のない描写が見られ、違和感を感じてしまい読む手が止まることがありました。
そうした点の手直しと、跡は描写の付け足しを行っています。
幌馬車の車輪と、荷と人を引く馬の蹄が凹凸の多い地面を叩く音が青空に響く。 こうして馬車を走らせて移動するのも、以前と比べれば格段に楽になった。 それまでの世界では当たり前に必要だった通行証は、今の世界ではもはや必要のないものだ。
それを可能とする出来事があったのはほんの一ヶ月前。 幌馬車にどっかり座るこの男に暗黒王が倒され、世界は大きく動いた。
「代わらなくて平気か?」
黙って座っていたバーナードが身を乗り出して、御者を務める男を気遣い声をかける。 吹き付ける乾いた風は、御者を務める人間にとって負担だ。
しかし、声をかけられた男はそんなバーナードの心配を笑い飛ばすように、爽やかな笑みを返す。
「大丈夫ですよ。 隊長は座っててください。 村に着いたら一番働いてもらわなきゃならないんですから」
「お優しいこった」
筋肉に覆われた身体を揺らし、バーナードは鷹揚に笑いながら燃えるような
「まあ、実際そうなるだろうけどな」
御者の男の言葉を受け、バーナードとともに馬車の中で座る男が肩を竦めて笑う。 暗黒王の支配を打ち破るため、バーナードと共に戦った『暁の兄弟』の部隊長の一人──トマスだ。 バーナードと対照的に細身だが小回りの利く身体と、銀髪の下の怜悧な頭脳で多くの戦場を駆け抜け、その力を証明してきた。
「交渉だろ? 民の激励に負傷した兵士の見舞いだろ? 力仕事はいくらでもあって──大忙しだな、英雄サマ」
これから訪れる村での仕事を指折り数え、彼はバーナードを茶化す。 支配と戦闘で傷ついた地の人々に希望を示し、これから先の未来へと進む力を与える。 極めて重大な仕事だ。
任せろと言わんばかりに拳を握る英雄はやはり頼もしい。 茶化すような笑みを浮かべたままのトマスも、どこか満足げに頷く。
村へ向かう『暁の兄弟』のメンバーは彼ら二人の他に十五人。 これでも組織全体から見ればほんの一部だ。 命令を受けて編成された少数の部隊員たちは、馬上や幌馬車、荷馬車で尻を痛めながら山を越えようとしていた。
そしてこの馬車にはもう一人、『暁の兄弟』に属さない、少々出自の異なる者が乗っている。
「それで、お前らはそのなんとか村に行ったことはあるのか?」
その出自の異なる一人が不意に声を上げ、同席する人間たちに問うた。 全員の視線がその女に集まる。
美しいと、そう評するに値する美貌の女だ。 冴えた月光を束ねたような白銀の美しい髪も、その奥から覗く妖しく輝く瞳も、男を蠱惑して止まない引力を持っていた。
しかし、今、彼女の前にいる男たちは誰一人として心を蕩かされるようなことはなかった。 警戒の目は彼女の美しい髪から突き出たもの──ヤギのそれのような形状の漆黒の角へと向けられている。
人間ならばあり得ないその特徴が、彼女の正体を雄弁に語っていた。 人類の敵対者、妖魔だと。 しかしその女──メアが敵の中でも重要な立ち位置にいたということは、その外見からは想像も付かなかった。
「シルヴィ村な。 俺はない。 クルミは調査で行ったことがあるって聞いたが」
首を横に振ったバーナードは、共に戦った『暁の兄弟』の仲間の名を挙げ、確認するような目をトマスへと向ける。 バーナードとメアの視線を受けながら、トマスは軽く肩を竦めバーナードと同じように首を振る。
「俺もねえよ。暗黒王の城とは反対方向だしな」
「そうか」
なぜそんなことを聞いたのかは分からないが、少なくともメアの求める答えではなかったのだろう。 短く答えるメアに、一際大きく馬車が揺れる音を挟んでトマスが剣呑に切り出した。
「お前こそ、自分で壊した村かもしれないんだぜ」
「可能性はあるな。 まあ、覚えてないんだが」
他人事のようやメアの返答に、トマスはひりつくような殺気を露わにする。 下手をすればメアに襲いかかりそうなトマスを目で諫め、バーナードは苦笑いを溢す。
「メア、お前なぁ…」
「私の仕事は制圧することだったからな。 そこの名前も後のこともあまり気にしたことがなかった。 ただ陛下の世界統治の為、役割を果たしただけだ」
悪びれる様子など見せず、元敵の中にいるとは思えぬ態度でメアは述べる。 その堂々とした態度は、この世界を支配していた魔王・暗黒王に最後まで付き従い、忠心を尽くした部下の一人に相応しい矜持を感じさせるものだった。
暗黒王が人間の世界を侵略するため、遠い『黄昏の大陸』から海を渡ってここ『暁の大陸』に上陸したのは50年以上前のこと。 その頃から現在に至るまで、メアは暗黒王軍の将として各地で破壊を繰り広げてきた。
人間より高い身体能力を持ち、特殊な術を使う妖魔。 中でもひときわ強大な力を持つメアの部隊に、なす術なく敗戦した人間たちも多い。
メアだけではない。 暗黒王軍の力は強大で、その侵略は苛烈だった。
しかし、その非道に抵抗を続ける組織もあった。 その一つが『暁の兄弟』だった。
そして先日、遂に彼らは暗黒王を討ち滅ぼし、数十年に及ぶ支配体制を打破せしめたのだ。
大仰にため息をつくと、バーナードは諭すようにメアに語りかけた。
「お前、俺たちが今から何しに行くか知ってるか?」
「村の修繕と経済復興の支援だろう?」
「完璧だ。なら、その村のことも知っておかねえとな」
幸いまだ時間はある、と付け加えて、バーナードはこれから訪れるシルヴィ村について語り出した。 疲れを見せず走る馬の蹄の音は、淀むことなく続いている。
シルヴィ村は暗黒王の居城から遠く離れた、内陸部の村だ。 25年ほど前に黄昏領になったが、反発は続いていた。 このたびの戦いで『暁の兄弟』に呼応して、村を管理していた妖魔に反抗した地域の一つだ。
森に囲まれ、採集と狩猟と少しの畑作で生きていたのも今は昔。 暗黒王の都市計画の中で、森の木を切り倒して畑を作らされていた。 そのほとんどは輸出用の砂糖の原料で、自分たちの食糧は外部からの輸入で賄っていた。
「俺らの仕事は、壊れた建物その他の復旧作業、物資の支給、何より今後の産業の道筋を立てる手伝いだ。 何で生きていくのか、この土地に住み続けるのか……お前のやることはほとんど力仕事だけどな」
「ああ。わかっているつもりだ。 人間30人分くらいは働いてやるよ」
「そいつは頼もしいな」
心から思っているという口調で、彼らは言葉を交わした。 そのやりとりをトマスは黙って聞いていた。
「で、だ。 内陸部ってことは、黄昏の妖魔との繋がりは侵略する側される側、それだけしかない」
バーナードがメアに伝えたい本題はここからだった。話に熱がこもるのをメアも感じた。
「妖魔は、村人にとって敵だ。 だからこそ、ウチの隊員からも妖魔は連れてきていない」
『暁の兄弟』は元々人間の組織だが、反暗黒王に共鳴した妖魔も数多く参加している。 バーナードにとっては、人も妖魔も等しく仲間だ。
しかしシルヴィ村の住民にとってはそうではないだろう。 大陸の沿岸部は、暗黒王の侵攻以前から商人や旅人など妖魔との交流がある程度あった。 だが、内陸の村となると状況は異なっていた。
「そんな中、俺とダーナがまあまあな無茶でお前を連れてきてるんだ。 こっちの都合と言えばそれまでだが、敵意を向けられることだけは自覚しててくれ」
メアは、今回の派遣を命じたダーナという司令官の顔を思い出す。
年若いながら、修羅場をくぐってきたことを感じさせる隙のなさはメアも感心させられるものがあった。 しれっと「千人分の人手を連れてきてくれたな」と言う男には、メアへの警戒心こそあれど、嫌悪や憎悪は感じられなかった。
それらの負の感情が仮にあろうと、メアが一応とは言え仲間になったことをそれに目をつぶれる程度には大きな収穫として捉えていたのだろう。 メアの手を引いて招き入れたこの英雄に、余程の信頼を置いているのを感じさせられた。
「初めは見せしめにされるのが仕事かと思ったくらいだ。 簡単に受け入れられるとは思っちゃいないよ。 ご忠告ありがとう」
それだけの反発を予想しながらもメアを連れてきた意図がどこにあるのか、メアは深くは聞かなかったしバーナードもここでは語らなかった。 どうだかね、と呟く誰かの声は馬車の音と風にかき消された。
描写はするべき、というのは小説における私のスタイルですが、それは読者様に伝えるためです。
繋がりのない描写は唐突過ぎて頭をひねることになり、読者様に上手く伝わらなくなってしまいます。
まず最初の部分で通行証云々と出てきたのが脈絡も関連もなさすぎます。
関所の門が開放されて何も確認されることなくそこを通り過ぎている場面なり何なり、通行証が必要で不便だったことを提示するような描写なしではあまりにも唐突過ぎて違和感が大きいです。
これほどではなくても脈絡がない部分がいくらかありました。 文を繋げる、ということをもう少し意識した方がいいと思います。
世界の支配者という大きな存在が打倒されたにしては、一週間でこんな動きができるのは早すぎるなと感じました。
組織の形態や戦地との距離などは分からないですか、部隊が帰還するだけでも一日、二日で済むものではないでしょう。
残党もいきなり立ち消えるわけでもありません。
これもまた違和感を感じたのでひとまず一ヶ月としましたが、この点については作者様の中で絵があるのであればむしろ申し訳なかったと思います。
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