アングロサクソンの漂流者
原作は↓になります。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054934374492
全体的に文を繋げ過ぎていて読みづらくなってしまっている、というのが大きな、ただし容易に改善できる問題点だと思います。
改行、読点「、」をもう少し使用するようにして、文自体ももう少し区切った方がいいです。
最大の問題は一人称と三人称がごっちゃになってしまっていることです。 どちらも固い文なので違和感が湧きづらいですがそこは統一すべきです。
今回は一人称にて手を加えています。
冷たい……
寒い……
海水を散々に吸い込んだ服は重たくまとわり付き、思うように動けない。 体温を奪われ切った体はなお重く、疲労と倦怠感が必死に藻掻く四肢に絡み付いていた。
視界も薄い霧に包まれたように瞭然としない。 魚らしき影が朧気に見える程度だ。
もしもサメが泳いでいたなら──そう怯えつつ、淀んだ水の中に揺蕩う小人たる自分ははどうにか不定形の冷たい、泥土のように重い水を掻いては水面に顔を出そうとした。
しかし、必死に顔を出したところで、自分の目に希望が映ることはなかった。 見渡せども陸らしきものは見当たらず、このまま凍えて、あるいは溺れて死んでしまうのではと、身近に迫った死への恐怖に心が震え上がる。
昔から海は嫌いではなかった。 綺麗な海を見るのも、穏やかな波の音も、独特な潮風の匂いも、寧ろ好きだった。 しかし、いざ危機に陥るとそんなことを思っていられないのが現実である。
見る分には大好きだった鮫やシャチも、鯨や
夢で海獣らが現れた時ですら、感動より恐怖を覚えた。 更に残念なことにこれは夢ではなく現実だ。 まさに今、現在進行形で自分は海で溺れている。
ガリアの対岸にあるブリッタ島へ行くはずの船が突然の嵐で難破して、乗組員は全て海に沈められ、
なんたる不幸か。 その島は快晴であれば対岸から視認できるほど近いというのに。
神の存在を認めつつも信じてはいなかったが、今は兎に角、胸に希望を待ち続けた。
体力を浪費しないようにと流れてきた木片にしがみ付き、故郷に置いてきた両親や姉たちのことをずっと想いながらどうにか正気を保ってきた。 しかしいつまでもこうしてはいられぬことは理解していた。
賢いシャチや海豚が自分を陸地まで送ってくれないか──そんな夢想に耽るほどに心も体も疲れ果て、周囲の木片をかき集めては
しかし残念ながら、自分は人間なのでそんなことを続ければ次第に体温を奪われて死に至る、そのことも当然理解している。
——生に執着してはいない。 こんな死に方も悪くないかもしれない。 次は海棲生物に生まれ変わるかも知れない。 そんな呑気なことを考えながら意識は海に溺れて、曇った暗闇の中へと眠るように沈んでいった。
——夢を見ていた。
自分は白い壁で作られた街にいて、壁の向こうには真っ青な海が広がっており、空も同じくらいに雲一つなく澄み渡っている。 壁の高さは自分の背丈よりも少し高い程度だが、手をかけられる場所がないから登れそうにない。
綺麗に整備された坂を降りると壁も低くなり、それまで隠れていた海が見えるようになった。
ゴミが一つも見当たらない美しい海。 似たような光景を旅先のギリシアで見た覚えがある。
海面には巨大な鯨や海豚の影が見える。 見た目は可愛いが体が大きいから近くで見たらきっと怖いだろうな。 食べられることはないが、鯨の大きな口が自分の側で開かれたら飲み込まれてしまいそうだ。
いつの間にか場面が切り替わり、今度は自分は川で何かに乗っていて、周囲には
自分を乗せている何かは勢い良く川を進んでいきその周辺には鯨やシャチ、海豚が通り過ぎていく。 正直これは本当に、一番と言っていいほど怖かった。
シャチは頭が良く社交的な性格だから好きだが、それは遠くから見ているからであって、海豚を上回る体格と口から覗く細かい歯はこちらの恐怖心を直接煽る。
常に水飛沫が跳ねているのに自分の体は全く濡れていない。 巨大な海洋生物達も自分には目もくれず通り過ぎて行くだけで、やがて恐怖心は無くなっていった。
——よく水に
ある時は巨大な四方形の箱に水が溜められ、その中にシャチや海豚が泳いでおり、なぜか自分もその中に飛び込んで近付いてくる彼らを怖がった。
また他の夢では、長方形の空間に六つの狭い足場があり、下には緑色に濁った水があり、その中には巨大な海洋生物の影が浮かんでいた。
また別の時には、緑豊かな庭を散策していると巨大な川があり、その中には鯨や海豚が泳いでいた。
信仰に乏しい自分が言うのも変な話だが、思えばあれは何かの啓示だったのかも知れない。
海難事故にあったのも、人生の転機であるという思し召しだったのかも知れない。
水に纏わればなんでも良いと言うのであれば、今自分の口に甘苦いものが流し込まれ、それで豪快に噎せたことも何かの縁だろうか。
そこでようやく、夢現を漂っていた意識が現実へと浮上する。
口に広がる味に、どうやら誰かが酒を飲ませてくれていたのだと、辛うじてそれは理解できた。
だが、誰が、なぜそんなことをと、自分の置かれた状況に疑問を感じる余裕などない。 気管に入った液体を追い出そうと、体は激しく反応し続けている。
噎せ返る自分を心配する様に背中を優しく叩かれ、漸く意識がはっきりしてきた。
わずかに落ち着きを取り戻し優しい手の主に目を向けると、そこには驚く程美しい
馬の
世の中にはこんな美しい人がいるんだなと、さっきまで海難事故で死にかけていたとは思えぬほど
ひょっとして、この方は海神か航海の神だろうか。 ギリシア神話の聖なる双子ディオスクロイのように、北にあるユラン(現ユトランド半島)の神話には救難や船旅の兄弟神アルシスがあるのだが、彼らこそその人であると言われても全く違和感は無い。
「おお、目が覚めたのか。 良かった……」
心地の良い男の声が上から一滴の雨粒として降ってきた。
故郷の言葉とちょっと違うがよく似た言語だ。 何だかとても安心する音に再び寝入りそうになるが、その前に男の顔をしっかりと見たくて無理やり目蓋をこじ開けていた。 声を出したいのだが、生憎そんな力はちっぽけな肉体には残っていないことが悔やまれる。
「俺の声は聞こえているか? ならばまずは挨拶をしよう。──俺はジュート族の首長ヘンギスト。 お前の事情はまだ分からないが、敵ではない以上、保護させてもらうから安心せよ」
不明瞭な視界の中でも、彼がニッカリと、精悍で気持ちのよい笑みを浮かべていることは分かる。 そして同時に、自分の黒い髪を優しく撫でる逞しい手が彼のものであることも。
大きくて節くれた手から伝わる温もりは長らく感じなかった父性を宿しているようで、優しく抱擁された気分になり、そのせいで益々目蓋は重たくなった。
なにか、言わねば——いや、まあいい。 挨拶は次に目覚めた時にすれば良いのだから、今はこの心地よい熱に身を委ねていよう。
意識は再び朱色に
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