勇者が斃した魔王を復活させた勇者の息子の物語

 原作は下記になります。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054921181429/episodes/1177354054921181649


 まず一つお詫びを。 率直に言いますと本文がかなり長いため、改稿は途中までとさせていただきました。 申し訳ありません。


 文章的に一見、問題がないように思いながら読んでいたものの、違和感を感じる点がかなりありました。

 前半には段落がないのに後半は適度に段落が設けられていたり、切るべき文が切られず長くなっていたりする点もそうですし、描写についてもですね。

 二画面で同時に表示しながら確認していただければと思います。





 その時、雲間から姿を現した満月は血のように赤かった──ある人物が遺した文書には、その日のことがそう記されていた。 どこか禍々しく、不吉を予感させる夜。

 鳥や虫さえもそれを感じるのだろうか。 いかに眠りの時間とは言え、生命に溢れるはずの山は不自然なほどの沈黙と静寂に包まれていた。


 沈黙の中、微かではあるが生命の存在を確かに告げる音が響く。 それら・・・は静寂の原因でありながら静寂に抗うように、暗い山の中を駆けていく。 駆け抜けた後には再び、全てが深い眠りに落ちたような沈黙が残された。


 先頭を行く影は、大きくも禍々しい蝙蝠にも似た翼を背に広げ、木々の上を滑空して行く。

 それが逃げる姿であるなら、続く影は追う者か。 己が背の丈の倍はあろうかという木の杖に立ち、魔女さながらに飛翔する影が翼の影から離されることなく追いかける。


 そして、二つの影のように宙を己がものとする術を持たないのか、宙を渡る異能を徒歩かちで追う影。 枝々を跳び移りながら宙を行く二つの影に遅れを取らぬその姿も、また劣らぬ異能だった。


「穿て、火の精霊よ! 『プロミネンススフィア』!!」


 鈴のような軽やかな声が響くや、杖の上に立つ影が突き出した指の先に明かりが灯る。 一瞬の内に膨れ上がった炎は球状を成し、弾かれたように指先から放たれた。 向かうは指が指す先──静かに風を切り飛ぶ影だ。


 翼の影はたいよじり、背後より迫る火球をかわすべく軌道を変えた。 だが驚くべき事に、火球も闇に赤い尾を引きながら弧を描いて翼の影に追い縋る。


「分かれよ!!」


 またも響いた声に呼応し、火球が弾ける。 分裂してその数を増した火球は、逃げる敵を覆い尽くさんばかりに囲い込んでいた。


『チッ! 風の悪鬼よ、迎え撃て! 『ゲイルミサイル』!!』


 翼の影が舌打ちしつつも両腕を交差させるように振ると、唐突に突風が吹き荒れ周囲の火球が掻き消される。

 一瞬、散った炎に照らされた術者の口元が歪んだ。 口角を僅かに上げたそれは紛うことなき笑み。

 それを見た翼の影は、相手の思惑に嵌まり込んでしまった己の失策に気付きほぞむ。 反射的に地に目をやれば、追ってきていたはずの徒歩の影がない。


 目眩まし・・・・足止め・・・


「今っ!!」

「せいっ!!」


 思うのと同時、どこから涌いたのかと思えるほど唐突に、翼の影の頭上に徒歩の影が現れた。 手にした剣は己の背に触れんばかりに振り上げられている。

 遅かった。 翼の影が気付いた時には、全身のバネを活かした神速の斬撃が既に放たれていた。

 反射的に身を捻ったが躱し切れず、片翼が根本から断ち切られる。 制御を失った影はそれまでの勢いのまま、錐揉みして森の中へと消えていった。


 それを視界に収めながら、徒歩の影は木々を蹴り付けて落下の勢いを殺し静かに着地する。 そのかたわらに杖の影が滑るように、音も立てずに空から降りてきた。

 地に足を付けた二人は互いを見て確認するように頷き合うと、同時に夜闇に包まれた森の奥へと目を向ける。 片翼を失った影はこの先へと落ちていった。 緊張を孕みながら、二人は夜闇に包まれる森の中へと臆することなく駆けていく。



「さあ、今度こそ逃がさないぞ! 観念しろ!!」


 大木を背に座り込んで俯く人影が、雲から顔を覗かせた月光に照らされてその姿をあらわにしていた。 背に残った片翼が、間違いなく二つの影が追っていた者であると教えてくれる。

 杖を持つ影が片翼の前へと警戒しながら足を進め、彼女の姿もまた月光にさらされた。


 それは闇に溶け込むような漆黒の衣装を纏った少女であった。 トップに纏めた髪は月光を吸収したかのように、美しく金色こんじきに輝いている。

 少女は杖を片翼の影に突き付け、状況がどう動こうとも対処出来るようにしていた。 微塵も油断はしていない。 油断できるような相手でないことはよく知っている。


「長かった戦いもこれで決着ですね。 アナタとの腐れ縁もようやく終わりにする事が出来そうです」


 続いて姿を現したのは、腰まである黒髪をポニーテールにした、一見、少女と見紛う程の美麗な少年だった。 白磁を思わせる白い肌を道着で包み、紺の袴を履いている。

 少年もまた、片翼の影に向けて刀を構え警戒を示す。





 映像的なイメージを強調するためか、序盤はキャラクターを全て影としてその姿を見せないように扱っています。 しかし、最初の「空に浮かぶ満月は」との文から満月に照らされた夜であることが想像され、炎の魔法が使われ辺りが明るく照らし出されて然るべきシーンもあり、その中で影として扱い続けるのは非常に不自然に感じられました。 自分としても修正しきれていない感じです。

 そして、そうした扱いの割にわずかに口角を上げたという微妙な表情が描写されている点でなおさら不自然に感じます。

 これは登場シーンを印象付けるためだとは思うのですがそれにこだわり過ぎたために失敗してしまっていると言えます。



「加えて併走しながらも沈黙を保っていた徒歩の影がいつの間にか姿を消していた事に漸く気付いたのだ。

 かと思えば突然、涌いて出たかのように」

 この文が少年の掛け声の後にくることで時系列がおかしくなり、動きを感じさせられなくなっています。 それと「かと思えば」と繋いでいるのも(いないっ!?)などと心の声や、あるいは地の文ででも何かを思った表現がないのでおかしく感じます。 「気付いた」というのはあくまで現象であって「思った」という風には受け取りづらいです。



「少年もまたかます切っ先を突き付けて」

 この部分がですね、「かます切先」などと一般にほとんど通じない言葉を使う必要が果たしてあるのかと。 「切先を」「刀を」とするだけで十分ですよね。 ご自身に置き換えて、本を読んでる最中に専門性の高い単語が出てきたらどう思いますか? これは読者を混乱させるだけの、辛辣に言えば作者さんの自己満足にしかなっていません。

 それと剣や刀を突き付けるのは示威行動にはなりますが、片手で剣を突き出した体勢は即時行動に移りづらく警戒するには向きません。 戦闘慣れしている相手に対してならなおさらです。 刀を構え剣先を向けながら警戒している、というのであれば表現をもう少し変えるべきですね。



追記

コメントをいただいた中でアドバイスを思い付いたので解説を追加します。


 戦闘シーンが描写しながらくどくなっていないという感想についてですが、まず下記の文を見比べてください。


「翼の影はたいよじって軌道を変えて火球を躱すが、驚くべき事に火球も闇に赤い尾を引きながら弧を描いて翼の影に追い縋る。」

「翼の影はたいよじり、背後より迫る火球をかわすべく軌道を変えた。 だが驚くべき事に、火球も闇に赤い尾を引きながら弧を描いて翼の影に追い縋る。」


 文章量は私が書いた文の方が多いのですが、原文の方がくどく感じると思います。 一番大きい理由は原文が一文なのに対して改稿後は二文に分かれていることですね。

 長文は悪いどころかむしろそうした方が効果的なこともありますが、躍動感がほしい戦闘シーンなどではくどく、冗長になってしまうのですね。 文を区切るとリセットされるし、一つ一つの動きを印象づけしやすい、読者がポイントを押さえやすくなるのでお勧めです。

 それと、「体を捩って軌道を変えて」というのが近い場所に動詞が二つ、それも「て」と語尾が同じものが並んでいるのがくどさの原因です。 「体を捩って軌道を変え、」とした形、いわゆる連用中止法にして後の文を加えると雰囲気が変わります。 あるいは「体を捩り軌道を変えて」とするだけでも少し印象が変わりますね。

 二つの動詞をひとまとめにせずに読点で切り分ける、動詞の締めを同じ形にしない、は単調になるのを避けるために重要です。

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