銃と火薬とアイスクリームと
原作は下記になります。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885257713
文章については大きく手を加えてはいません。
主に直したのは段落が一切なかった点です。 それと若干、気になった点を修正しています。
『十二月十二日』
──ギシッ……
築三十年超えの階段が私の体重に悲鳴を上げる。
いや、そんなには重くないよ? むしろ平均より少し軽いくらいだ。
この階段に根性がないだけ──そう自分に言い聞かせ、二階の自分の部屋へと一段、足を持ち上げた。
階段を昇りながら、私の頭の中には色々な考えが浮かんでくる。
──ギシッ……
十三──二階までの階段の数。 十二でも十四でもなく、十三。
嫌なことを連想させる数字だと、いつもそう思っていた。 だけど今日に限ってはさほど気にもならない。 いざとなるとそんなものかと、口から笑いがこぼれていた。
──ギシッ……
これも階段の音。
ここ数ヶ月は「どうして?」の連続だった。
階段を昇るために足元に目を向ける。 擦りむいた膝が嫌でも目に入る。 膝だけではない、私の身体にはあちこちに擦り傷があった。 とりわけ今日は頬が熱い。
傷ひとつにひとつの『どうして?』が結び付けられている。 全身どうしてだらけ。
本当に……どうしてこうなってしまったんだろう。
──カァ……
カラスの鳴き声。 もちろん、私の疑問に答えたという訳ではない。 夕方を知らせる時報のようなもの。
──ギシッ……
これも階段の音。
──ギシッ……
階段の音。
階段の音。
階段の音…………
──ギチッ……
……これは私こと佐々木
遺書はない。──伝えることはない。 伝える相手もいない。
未練も……多分ないんだと思う。
雨でも晴れでもなく、祝日でも週末でもない、だけど私にとっては特別な日に私は――首を吊った。
――どうしてこうなってしまったのだろう……
『十二月十二日』
──ジリリリリリリリッ!
私の朝は味気ない金属音から始まる。
「むぅ……」
私の不機嫌な声を無視して喚き続ける目覚まし時計を手探りで止め、ベッドから上半身を起こす。 ベランダの窓越しに聞こえてくる鳥の声が私を二度寝へと誘うが、その誘惑を振り切り軽く伸びをし目をしっかりと開ける。
目に映るのは見飽きるほどに見慣れた自分の部屋。 相変わらず生活観のない部屋だな、と感心してしまう。
私の部屋に設置してある家具は、比喩表現抜きで机とベッド、それに姿見しかなかった。 それ以外にはドアノブに掛けられている制服があるだけだった。
掛けられている制服は二着。 すぐ制服を汚してしまう私には予備の制服がかかせない。
他にあるものと言えば、せいぜい趣味で作っている折り紙で折った大量の鶴や、花などが机の上に並べられているくらいか。
脳がまだ寝ぼけているようなので軽く頭を振ると、自然と壁に貼ってあるカレンダーが視界に入る。
「あ……」
間の抜けた声が出た。 今日という日が何の日かを思い出すと、早朝特有の不機嫌も一瞬で吹き飛んだ。
とは言え寒い。 布団から出ている腕を見ると鳥肌が立っていた。
地域的に考えると、よそ様の冬と比べれば寒さもマシなのかもしれない。 だけど、この街から出たことがない私にとってはそんなことは関係がない。 よそよりマシだろうと寒いものは寒いのだ。
身体は暖かい布団と別れるのが名残惜しいらしく言うことを聞かない。 だけど、急がないと学校に行きにくくなる。 脳の訴えに私はベッドからの脱出を試みる。
……脱出成功。
畳のイグサの匂いが心地よい。 四畳半しかないけど、ここは私が安心できる唯一の居場所だ。
寝癖がついてないか確認するために、机の横に立てかけてある姿見の前に立つ。 髪よりも先に全身が目に入ってきた。
体つきは細くて小柄。 スレンダーでも、可愛らしくもない。 栄養が足りず貧相と言うのがふさわしい。 全体的に血色が悪く、特に顔色が悪いことがその印象を決定的なものにしている。
「ふぅ……」
思わずため息が出た。 右側が少し短くなっている髪が見えたからだ。 昨日、何回も見たのに何度見てもため息が漏れる。
私が唯一自慢出来るモノ。それが髪だった。 腰の下まで伸ばしてある髪。
最初は気にもしていなかったが、両親が何度か褒めてくれるうちにいつしか自信をもって私の良い所、と思えるようになっていった。
最近は慢性的に金欠なのでほとんど買えてはいないが、両親に褒められて以来、事あるごとに少し値段の高いシャンプーやリンスをお小遣いで買うのが趣味になった。
特に百合の香りがするシャンプーは私の中で一番のお気に入りで、ほぼ毎日使っている。
とりあえず櫛で
少し気分は落ちたが今日のことを考えるとすぐに気を取り直すことができた。
ドアノブにかかっている制服を急いで着込み、姿見で全身に異常がないかを確認した後、部屋を後にする。
はやる気持ちを押し殺し、階段を膝と足首のばねを使って音を殺しながら降りた。
まだ両親は寝ている時間だ。 私は洗面所に行き冷たい水で恐る恐る顔を洗い、歯を磨き、家を出た。
徒歩で十五分程度の場所に私が通っている『鳴神(なるがみ)高等学校』がある。
校舎の入り口上部にある壁時計の針は七時丁度を指していた。 いつも通りの時間に胸を撫で下ろすと、私は足早に職員室へと向かった。
首を不自然じゃない程度に下げ、目線は常に斜め下。 これが私の校門から教室までの移動姿勢だった。
階段を黙々と機械のように登り、職員室に入ると宿直の先生と目があった。 職員室に充満するコーヒーの匂いとタバコの臭いに不快になる。
「お、佐々木……だったかな。 今日も早いな、結構結構、はっはっは」
「あ、お、お、おはようございます」
宿直の先生の豪快な笑い声に私の言葉がかき消される。 恥ずかしさから、かかっていた教室の鍵をひったくるように取り、職員室から出ると教室へと向かった。
教室には誰もいない。 一番乗りだ。 私が鍵を持っているのだから当たり前だけど。
鞄から教材などを取り出し、机に入れる。 そして、ひしゃげて開けにくくなったロッカーの扉を強引に開け、鞄を仕舞い込んだ。
毎朝、同じように繰り返している作業を手早く終えると、これもいつものように教室の掛け時計に目を向ける。
七時七分――七秒ではなかったが、なんだかラッキーな気分になる。 口元がほんのちょっとだけ、思わずにやけてしまった。
時計に祝われたような、そんな感じ。
今からする単調な作業も早く終わればいいのだけれども……こればかりは相手があることなので、なんとも言えない。
まだ誰もこない教室で一人、自分の席に腰を落とすと、筆箱から出した消しゴムで机をこする。
淡々と。
黙々と。
延々と。
今日はちょっと多い……でも、大丈夫。 今日は辛くない。
願うべくはこのまま何も起こりませんように……。
そのままでもいいかと思うくらいでしたが多少の書き直しをさせていただきました。
特に気になったのは段落が一切ないこと。 一文ごとに改行されていて少し読みづらいなと。 合わせて多少の加筆、誤字の修正をしています。
間違えやすいというか分かりづらいのですが「登る」は山や木の場合で階段昇降と言うように階段は「昇る」を使う、といった本当に細かい点ですね。
階段が軋む音については古い文学作品のようでありかとも思いましたが、句点で締めるのがあまり好きでないためあのような表現に変えています。
一文が長すぎる箇所も直せるところは直しています。
比喩抜きで部屋にはこれしかないと書かれていた後に姿見が出てきてしまっていますね。 細かいしさほど意味があるわけでもないですがこれも訂正してあります。
『当然一番乗り。私が鍵を持っているのだから当たり前だけど。』
当たり前だけど、と後の文で付けているのだから最初の当然は必要ないですね。
それとかなを挟まずに漢字で複数の単語がくっつく場合、基本的には読点で分けた方がいいです。 『当然、一番乗り』というように。 そうしないと熟語なのかそうでないのか紛らわしくなります。 読む時のリズムとの兼ね合いでどうしても打ちづらいケースもありますけどね。
『自分の席の椅子に座ると』
席は『決められた座りどころ』を意味するので『席の椅子』とするのは違和感があります。 机に座ってるような場合は『席の机』とするのはありだと思います。
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