執行者の気まぐれ冒険譚

 原作は↓になります。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054898677685


 小説の書き方のルールはそれなりに守られています。

 問題は文法、文の構成が明らかにおかしい点が相当数あることです。 下で詳しく解説しています。




 私の名前は、首刈くびかり 執刃しつば。 ここ、マタル島と言う監獄島で死刑囚の処刑をしていた。

 監獄島とは言うが、監獄だけがあるわけではないし、ましてや島そのものが監獄ということもない。 街や村もちゃんと存在していて、普通の人間が普通に生活している。

 治安は……保たれてはいる。 ここの刑務所が住人達の精神に恐怖を植え付け、犯罪の発生はかなり抑えられていた。 それを平和と呼べるのかは私の知ったことではない。


 そんな枠組みの中、私が主に引き受ける仕事は……『公開処刑』である。 死刑囚、又は街や村で重罪を犯した人間をその場で処刑する。 例え、それが家族を持つ人間であっても、子供を持つ人間であったとしても、心優しき人間であろうとも、罪を犯した人間は全て同じであり、平等に扱う。 私は、そんな人間達を今まで何百と殺してきた。


 そして、今日も私はとある依頼を引き受けて、摘発された犯罪者を処刑する。 その相手とはそう──『人殺し』だ。 街で酒を飲み散らかし、ある事がきっかけでついカッとなったこの酔っ払いは、勢いに任せて人を殺してしまった……らしい。


 らしいと言うのは、私は現場を見ていないからだ。 ただ現場を目撃した人間がそれを私に報告し、その男の処刑を依頼してきた。

 勿論、酔っ払い本人はそんな記憶は無く少し理不尽な気もするが、殺ってしまった事はこの監獄島では目撃者がいればそれは全て、例え真実が他にあろうとも捻じ曲げられ、事実となる。

 自分が見た確かな事実以外、『らしい』としか言えない。 この島はそんなところだ。


 酔いから覚めた男は私を見て、何故自分が殺されなければならないのかと、繰り返し訴えかけてきた。 自分は地位ある者であり、この島には特別な調査をしに来た、自分を殺せば取り返しが付かなくなると、繰り返し私に説明する。

 しかし、これは私の前では単なる言い訳に過ぎない。 罪人は全て平等に。 例え地位ある者でも死んでしまえば意味を無くす。


 私は殺さないでくれと必死に懇願する男に何の躊躇いも無く、無言で腰から剣を抜く。

 私の剣を見た男は慌てふためき、『誰か助けてくれ』、『私は無実』だと周囲に助けを求めて叫ぶ。 しかし、そんな叫びはこの島の住人に対しては無意味だ。 もし罪人を助けなどしようものなら、その人間は共犯者として罰を受ける事になる。

 それを知っているからこそ、誰一人この男を助けようとはしない。 ただゴミを見るような視線で男を串刺しにする。


 仮にこの男が無実だったとしよう。 そうであったとして、私がこの男にすべきことはただ一つ──この島に調査にきたのが運の尽きだったと、それを教えてやることだ。

 罪人は殺す。 その罪が真実であれ虚偽であれ、罪人とされた者を殺すのが私の仕事だ。 死という裁きを平等に与える。 それを曲げることは決してあり得ない。


 だが、慈悲がないわけではないのだ。 この罪人の目には死への恐怖こそ映っているが、抵抗や反抗の意志は見られない。 ならば、死という結末は決して変わらないが、せめてその過程は苦しみのないものにしてやろうと、その程度の慈悲はある。

 一瞬──痛みも苦しみも最低限にあの世へ送ってやろうと、私は決意した。


「安心しろ……一瞬で終わる。 せめて苦しまない様に殺してやろう」

「待て待て待て待て! 馬鹿野郎ッ!! 止めろおおおおお!!!」


 私は男の脛を蹴り、両足のバランスを崩させると、そっと剣の付け根の刃を男の首に当てる。 歯はガタガタと震え、涙目になる男の恐怖は剣から私の手に確実に伝わってくる。

 だがそれは一瞬である。 私は男の首に剣を当てながら、剣を両手に持つ。そして、一気に手前に引き、男の首を勢い良く斬り落とす。

 男の頭部は地面に鈍い音を響かせながらゴロリと転がり、断面からは一切の血飛沫が無い。 首を落とされた男は膝立ちの状態で静かに眠った。


 男の首を斬り落とした後、私は一つ息を吐く。

 どうも納得が行かなかった。 この男の首はやけに重い。 まるで本当に無実の人間の首を斬ったかの様な、『命』の重みが私の手に後から伝わってくる。

 今までに、何度も無実らしき人間も殺してきたが、この男の首は訳が違う。 もしかしたら……酔っ払いも嘘? 記憶が無いのも当たり前だったのだろうか? もしその考えが正しいなら地位ある者……この男の首は一体……。




───────────────────────────




 翌日の朝、目を覚ました私の視界は、確かに目を開けたにも関わらず真っ暗だった。 それだけなら、夜が明ける前に目が覚めてしまったのかと思えなくもない。 しかし、両手が背後に回されて縛られている状況がそれを否定していた。

 情報は耳から入ってきた。 どれだけの人数のものか、百は下らないだろう人間のざわめきが聞こえる。 顔に触れる感触からして、どうやら私は頭に袋を被せられているようだ。


 この状況……覚醒した私の意識はすぐに何が起きているのか理解した。 今、私の頭を包む袋は私にとって馴染み深い物──処刑の際に罪人の頭に被せる袋だ。 切り落とした頭を包む作業を省くための物で、昨日の処刑では使わなかったが私もよく使っている。

 これを被せられているということは、つまり私はこれから処刑されるということなのだろう。


 さて、私はこの状況の中でも至って冷静だ。 もし、私が処刑されるというのが勘違いでないのなら、その心当たりが思い浮かぶくらいには落ち着いていた。

 どうせ、昨日の処刑した男の件だろう。 なら、死ぬ前に教えてほしい。 あの男は何者だったのか。


「執行者よ。 今、私の前にいるのだろう? 罪人である私が質問する立場には無い事は分かる。 だが、せめて死ぬ前に教えてほしい。 あの男は何者だったのだ?」


 質問に対して、執行者であろう男の声が少し煽りが混ざった声色で答える。


「ほう? 流石は執行者と呼ばれた男よ。 自分が犯した罪を自覚しているとはな」


 返ってきたのは低い男の声。 聞き覚えは……どうだろうか。 少なくとも親しい知り合いでないことは間違いない。

 男はどこか楽しげな笑い声を微かに漏らす。


「だが……どうやら何故此処に居るのかは理解出来ていない様だな。──まぁ、良いだろう。 罪人の最後の望みを聞いてやろう。 貴様が昨日殺した男とは……親善大使という地位に立っていた男なんだよ! まぁ、何処の親善大使か知らんが……恐らく何処の国の管轄でも無いこの島に間違えて来てしまったんだろう。」


 私の脳裏に処刑した罪人の言葉が甦る。 地位があると、特別な調査にきたと、そう言っていたな。

 罪人とは言え、それだけの地位にあり、特別な仕事に携わっていた人間を殺したとなればやむを得ないか。


「貴様はこれよりその罪により処刑される……大丈夫だ。 痛みは一瞬だ……ククク……」


 私はそっと目を瞑る。 全身の力を抜き、死を覚悟する。

 痛みのない処刑など存在しない。苦しみのない処刑など存在しない。 『痛みの無い処刑』と言うのはあくまで罪人に死を覚悟させ、一瞬の安心を与える言葉に過ぎない。 私は……息を一つ吐く。


 その瞬間、全身に強烈な痛みが走る。 まるで今まで殺してきた罪人が霊となって私の体を貪り喰らう様な……四肢を引っ張り千切ろうとする様な……いや、実際は……執行者の憎悪である。


 あまりの激痛に意識が飛びかける中、私の耳に人間達の恐怖で慄くざわめき声と、執行者の怒りの声が聞こえる。


「クソッ! クソッ! クソぉ!! 貴様のせいで俺の人生は狂ったのだ!! 貴様をいつか殺してやると……どれだけ望んだか! フハハハハ! 親善大使ほどの地位ある者を騙し、貴様を騙し、こうも簡単に復讐が叶うなんてなぁ! この化け物がっ! 死ねええええええ!!!!!」


 そうして、私の意識は何度も胴体に刃物が刺される感触を感じながら完全に絶えた。





 序盤で『そんな監獄島でも』とありますが『どんな?』と思ってしまいます。 『そんな』と言うなら当然、監獄島が『どんな』ところであるのか説明があるのが普通です。 しかし、直前の段落での説明は監獄島がどんなところか一切触れず、主人公のことを少し話しただけ。 『そんな俺は』と主人公の話に繋がるのならいいのですが、『そんな監獄島』と出てくるのは明らかにおかしいです。



「『例えその中に』《家族を持つ人間が居たとしても》、《子供を持つ人間でも》、《心優しき人間でも》」


  こうした文を重ねる書き方で強調するのは私もよくやります。 ただし、この書き方は数学の共通項をまとめるやり方と同じです。 『1x+2x+3x=x(1+2+3)』ってやつですね。

 この考えで上の文を見るなら『例えその中に』が共通項『x』にあたります。 《》にそれぞれ付けてみるとおかしさがよく分かりますよね。

 『例え』を共通項としたならぎりぎり成り立たなくもないですが、その場合は『その中に』を消す方が自然です。 そして書式を統一した方が美しくなります。

 私の場合は『あっても』『あったとしても』『あろうとも』と、同じ意味で書式を統一しながらも全く同じ言葉の繰り返しで単調にならないように、且つ後に行くほど堅く強い言葉にして盛り上げるようにしています。 ただ、一人称ではキャラの個性があるのでこうしたことが正解かどうかは難しい判断になりますが。



「その相手とは、ただ単に街で酒を飲み散らかしある事がきっかけでついカッとなったこの酔っ払いは、人を殺してしまった……らしい。」


 これも上と同じです。 今度は『人を殺してしまった』が共通項になります。

『その相手とは人を殺してしまった』

 やはりおかしな文ですよね。



「らしいと言うのは、私は現場を見ていない。」


 なぜ『らしい』と伝聞形式なのか説明する文言ならば、「私は現場を見ていない『からだ』」とするべきです。 『のだ』『ためだ』でもいいです。



「では、本当にこの男が無実だとしよう。この島に調査しに来た事が運の尽きだと教えるのだ。本当の罪人なら私は容赦なく殺すだろう。しかしこの男の目には、『恐怖』。それしか映らない。私はその目に免じて、せめて苦しまない様に、一瞬で殺そう。」


 この文については全てが問題です。

 最初の2つの文章の間に繋がりがなく意味不明な文になっています。

 本当の罪人でなくても殺すのに『だろう』と推定になるのは明らかにおかしい。

 体言止めの使い方が間違っています。 そもそも冤罪であろうとなかろうと、殺されるとなれば恐怖を感じて当たり前です。 苦しませないという慈悲をかけるかどうかの判断材料にはならないでしょう。

 主語が『私は』なのだから『殺そう』で結ばれるのはおかしいです。 全くないとは言いませんがこの文の構成ならば『殺そう』で終わらず、『殺そうと決意した』のようにするべきです。



「さて、私はこの状況の中で至って冷静でいるが、もし私が処刑されるのなら、心当たりはある。」


 文の前半、後半に繋がりがありません。 『冷静でいる』に続く文としておかしいですよね? 冷静だから心当たりを探る余裕もあったわけですから。



 処刑を行おうとする相手が主人公を呼ぶのに『貴様』だったり『お前』だったり混ざっています。 これは統一しましょう。

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