第4話 トーキング・デッド

 某ショッピングモール内

 二人の男女が店内中をまわり、物資を集めていた。

「水は?」

「ダメ、殆ど残ってない。」

「やはりか、最早ココも長くない。

一刻も早く助けを呼ばないと」

残った少ない食料に手を付け、銃の残弾を確認する。


「家族は?」

「…娘が二人いるよ。」

「そう..私は母と父と三人で暮らしてた。二人ともどうしてるかしらね」


「生きてるさ。」「..だといいけど」

かつての平和な生活に思いを返し、現在の絶望を見つめていた。

「家に帰ったら、まず熱いシャワーを浴びたい。それから美味しい食事を食べたら、ベッドでゆっくり眠りたい」

「そうか、僕は..」


「ヴォォォー!!」

「くそっ!」「ウソ、すごい数!」

入り口に作ったバリケードを破るかの如く、大量に理性を失った人間たちがモール内に攻め入る。

「くっ、弾よもってくれ!」

必死に撃ち続ける男、しかし一向に数は減らない。

「くそっ、くそっ!」


「ヴォォォ! ヴォォォー!!」

「いまいち危機感に欠けますね。」


「..ヴォ?」

「お初にお目にかかります。

ホラープランナーの黛 礼子です」

壁一面に大きな血文字で

〝マユズミ レイコ〟

「片仮名の方が雰囲気あるでしょ?」

人々の動きが一瞬止まる、目の前に黒髪の女が立っていれば当然だ。しかし直ぐに理性を吹き飛ばす。

「ヴォォォー!」

「やめてください

アナタ普通に話せますよね?」


「...はい、すいません。」「もう。」

しゅんと気を落とし近くの岩や突起物に一斉に腰を下ろす。

「一般的にはゾンビ、いやアンデットが正式な呼び名でしょうか?

皆さんは少し常識に囚われ過ぎです」


「..いやだってゾンビって喋らないし手を前にゆっくり歩くしみんな。」


「それです、誰かが決めたゾンビの常識。いつまで守るおつもりですか?」

見慣れたテンプレ、最早誰が見ても驚かなくなっていた。中の男女も気を遣って気を急いでいただけだろう。


「でも今更〝話せます!〟

とか言えないしなぁ..」


「自然に話せばいいんです。

常識というのは、些細な振る舞いによって大幅に変わるものですよ」


「でもこんなボロボロの服で血まみれの身体じゃ絶対キモがられるし、娘に会えたとしても撃たれて終わりだよ」

一度殺され極端にナイーブになってしまっている。理性を失えば人間こんなものだ、話せているだけまだマシだ。


「好きなモノを持参しては如何です?娘さんがお好きな花やスイーツ、持っているだけで随分態度は変わります」

死んでも尚思い出は残っているものだ娘が生きていればの話だが。


「それとタイミング、もしやと思いますが今がベストタイミングだと思っていませんか?」


「ベストだろ、他にどこがある?」

家族の話をして語りあったところを目印に襲う、まだそういった攻め方をいている事にマユズミは疑問を覚える。

「いいですか?

アナタたちが〝ここだ〟と思っている事を、中の人は気付いています。」

ゾンビたちは気がつかなかったが、中の男は話しながらチラチラと外を確認して見ていた。


「突入がバレていたのか..!」

「ウソだ、必要以上に喉から声を張ってしまった..恥ずかしい!」


「オレ普通に話す!」

「直ぐに身体洗ってキレイな服に着替えてくるぜ!」

ゾンビたちは攻め入るのをやめ

守りに入った。


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ホラープランナー〝マユズミレイコ〟 アリエッティ @56513

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