第3話 学校の不思議セブン
学園七不思議
未だ校内で語り継がれる不可思議な怪奇現象の数々は、尚も形を残して様々な学校に存在していた。
「それでは会議を始めます。」
誰もいない多目的室に集められた古参のトリッキー集団たちの中心で、腕を組んで指揮を取る長髪の女が一人。
「..え、ダレ?」
「学校の住人じゃないよね?」
「お初にお目に掛かります。
私ホラープランナーの黛礼子です。
〝マユズミ レイコ〟です」
ホワイトボードに大きく名前を書く。
「片仮名の方が雰囲気出るでしょ?」
雇い主はかつてウサギ小屋にいて、今は死後の世界に旅立ったウサギ。
向こうで声帯を手に入れたと嬉しそうに饒舌に会話してくれた。
「ホラープランナー?
何の用だよ、邪魔しないでよ。これからみんなで会議するんだから!」
「話し合うほど怖れられています?」
「……いや、それは。」
人体模型が力無く答える、痛い所を突かれたといったところだろう。
「身になった会議なら構いませんが、無駄な話し合い程無意味はありません恐怖に手間無駄は不必要ですよ。」
ホラーはスピード勝負、特に七不思議は突発的なインパクトが必要だ。
「..ならどうすれば?」
「まず不思議の数ですが、7つは多過ぎるでしょう。」
「え!?
そこが醍醐味でしょ!」
マユズミは大きく書かれた自分の名前を消し、ホワイトボードに七不思議の種類を書き出した。
「花子さん、人体模型、ある筈の無い16段目、プールの霊、笑うモナリザ、一人でに鳴るピアノ..。」
字面を吟味し考える、その後幾つかの不思議を纏めて四角く囲った。
「花子さんプールモナリザピアノ、これ全部トイレでやりましょう。」
「はっ!?」
「いやいやいや!
何言ってんの、トイレ私の城だから」
花子が焦り顔で止めに入る。
「城ならば豪勢な方がいいでしょう?
エリーゼの為にモナリザが笑っているトイレなんて他にありませんよ。」
エリーゼの使っていたトイレでもそんな奇怪な現象は起きないだろう
唯一無二、独自の恐怖の完成だ。
「あのぅ..。」「はい?」
プールの霊が力無く手を上げマユズミに問いかける。
「お二人と違って僕は〝プールの〟とはっきり付いているのですが..」
「……」
向き直り、ホワイトボードの隅に水洗便器の絵を書いて指を刺す。
「ここがアナタの新しいプールです」
「いやムリムリムリムリッ!」
「ブリブリブリブリッ?」
「やめてくださいっ!」
デリカシー皆無のアドバイスを鵜呑みにするには時間が掛かるが、マユズミのプランニングに間違いは無い。
「人体模型、テケテケさんは独立でお願いします。」
「独立なの?」
「はい
唯一のパワーファイターなので。」
「ちょっと待って。」「何です?」
さらりと自然に呼ばれた事で一瞬気が付かなかったが、今明らかに知らない人物が混じっていた。
「テケテケってだれよ?」
「こんちは、テケテケっす!」
軽快な振る舞いにおぞましい風貌。
セーラー服の身体は半身の上部しかなく、下半身が削がれている。
「不思議のインパクト要因として来て頂きました。彼女には主に夜の廊下を駆けていただきます。」
「よろしくっす、テケテケっす!」
やはり古参のお化け、ギャルのようだがどこか古い、コギャル風だ。
「僕は主に何を..?」
もう一人の戦闘員人体模型が問う。
「同様に走りまわってください、中の臓物を出来るだけ散らせて」
スプラッターかつモラル度外視な事を言っているが正確なプラン立てた物言いだ、彼女の言葉に狂いは無い。
「あとは16段目の人はトイレが3階にあるという事なのでなんとなく階段っぽく寝そべっていてください」
「俺だけなんか適当じゃねぇ?」
階段は少し違和感程度の役割でいい。メインのシーンになる事は決して無い
「テケテケ、人体模型と煽った後階段を登らせトイレに誘導する。すると中ではモナリザとオカッパがエリーゼの為に笑っている、後退りして腰を抜かしたところに新生プールお化けです」
プランは完璧、抜け目は無い。
古さを一新し見事怪奇は生まれ変わる
「不思議8つあるじゃん..」
「体感で数えれば問題ありません。
こういった形で活動すれば、粗方の学生を戦慄させる事は可能かと」
「待って..!」「....何です?」
花子が響く大声で言葉を静止した。
「確かに素敵なプランだわ。でもねマユズミさん、私たちは七不思議の一つ古いと言われても変わらぬ存在!」
「..ほう?」
「私はトイレの花子、3階のトイレという城を頂いたいわば選ばれし者。そこに他の不思議を招いてパーティしろですって、冗談じゃないわっ!」
他の不思議を否定している訳では無いただ己のポリシーに反する驚かせは出来ないと提言している。
「それでもアナタは常識を変えるの?
元のある形を否定してまで恐怖を生み出したいと思っているの!?」
「……甘ったれるな。」「え..?」
花子の思いを両断する言葉に一同は驚嘆し、唖然とする。
「たかだかオカッパのトイレ守りがなんですか。大体何ですか〝トイレの花子さん〟って、女子トイレいるなら普通の光景だと思うのですが。」
「……何が言いたいんですか?」
「分からないんですか?
勝てないと言っているんです、腸の飛び出た人体模型にオカッパのトイレットレディがインパクトで勝てますか」
「それは....確かに。」
マユズミは更に言葉を続けた。
「私はそれを踏まえた上でプランニングを行なっています、アナタの守るトイレという城がいかに人体模型やテケテケを超えるか、そう考えて。」
「マユズミさん..!」
誤解をしていた。
ただ地味な空間を茶化すだけの嫌な奴だと思っていたがそんな事は無い。空間から恐怖へと造り変えるクリエイターだったのだと漸く気付いた。
「一人で守らなくてもいいのです、他に不思議がいるのなら皆様で」
柔らかな言葉には温度が無く、直ぐに業務上の言葉だとわかったがそれでも良かった。心に不思議は一切無い。
「…みんな、いくわよ。
新生七不思議、全員で驚かすわ!」
「ああ!」「やろう!」
「いくっす!」「やろうよ!」
「..俺だけやる事変わんねぇけど。」
一致団結摩訶不思議、彼女たちを止められるものはもういない。
「また用が有ればご用命を
次回からは有料になりますが..。」
その日から学校内では
〝7つじゃないけどチョー怖い〟と言われるようになった。
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