第2話 お化け屋敷のROCK3

 某お化け屋敷

 暗く不気味な墓場の道を、肩を寄せ合い震えながらもカップルが行く。


「い、井戸?」

「怖〜い、もうなに〜..?」


 井戸から微かに声が聞こえる

「いちま〜い、にま〜い、さんま〜いよんま〜い、ごま〜い、ろくま〜い、

ななま〜い、はちま〜い..」

一枚ずつ皿を数えている

井戸から現れた女の顔は半分ただれ、悍しい表情を浮かべていた。

「きゅうま〜い、一枚足りない..。

それは...お前だぁっ!!」

恨みの念が篭った叫び声が、井戸の中からこだまする。

「……あれ、だれもいない。」


「結局何も出てこなかったねー。」

「なんだったんだろ、何か聞こえた気がするけど」

目の前にいたカップルは既に背中を見せている。もう出口に辿り着きそうだ

「何がいけなかったんだ..。」


「番町皿屋敷ですか、何を今更..」

「わっ、えなに?」

背後から声がする。と、それと同時になびく長い黒髪が視界に入った。

「恐れ入りますが井戸の中であれば私の方が向いているかと。」

長身の愛想の無い女

当然見覚えは無く面識も無い。


「お初にお目に掛かります。

私、ホラープランナーの〝マユズミ〟

マユズミ レイコと申します。」

名刺を渡して改めて自身の身分を晒す

「黛、礼子...」

「マユズミとカタカナで表現します。

そちらの方が雰囲気出るでしょう?」

お化け屋敷で動じない女は確かに怖さに厳しい印象を与えた。それと同時に強い信頼性を感じた。

「怖さを提供してくれるの?」


「ええ、貴方に恐怖のプランニングを施し霊としての威厳を保ちます」

お化け屋敷ならば話が早い。客は初めから怖がりのボルテージが最高潮、金を払ってまで怖がりたいという者ばかり。ある種パリピより柔らかい。

「それは有難いけど、誰に雇われた?

当然私じゃないよね」


「先代のオーナーさんです」

「先代のオーナー⁉︎

え、だって..死んでるよね?」

今よりも前に関わる屋敷の先代オーナーにオファーを受け、「オイワ」を救って欲しいと頼まれた。

「私、死後の方の仕事しか引き受けないと決めているので。」

客が生者であると、報酬の問題でモメるので良心的な死者と取引をするようになった。殆どが遺産払いだ。


「そうなんだ..でも私、知ってるかわからないけど〝オイワさん〟って結構有名な霊でその、未練残してお化け屋敷にいるんだけど..」


「知ってます。

承知の上で言っているんです、貴方の遣り方は古い。9つ皿を数えるまでの間現代の子は待ってくれません」

断固言い切った。キャリアや肩書き、そんなものは関係なく一括りに「霊」とする、それがマユズミレイコ。


「先程も見ていましたが、3枚目を数え終えたあたりで既にカップルは先へ進んでいました」

一枚想定が実際は7枚足りてない、お前よりもまず自分の力量だ。


「省いた方がいいかな、6枚目とか」

「9枚目からでいいでしょう。」


「いきなり一枚足りない!?

その後どうするの私、凄い余るよ!」

長いストロークを持たせた9枚だ。

その間のロングゴーストタイムが大幅に削減されてしまう、酷く持て余す。


「一枚足りない..お前だぁっ!

...の後は様々な足りないモノを数えていきましょう」


「足りないモノ?」

「ええ、例えばコンビニの会計で1円足りな〜い..お前だぁっ!」

確かに怖い、ゆっくり皿を数えるよりも余程恐怖を煽る。

「私でも一応、番町皿屋敷のオイワって事になってるんだけど..」


「井戸の中にいるじゃないですか。」

「そうだけど..」

古参幽霊のプライドが未だ皿を数えろと訴えかけてくる。しかしここはお化け屋敷、過去の栄光はそこに無い。


「ねぇ、やっぱり出ようよ..。」

「大丈夫だって!

それにもう金払っちゃったし。」


「あ、人来た。」

「ウソでしょやるしかないじゃん!」

井戸に潜み直し、マユズミはそれを隠れて影から見守った。


「..何これ、井戸?」

「不気味だな〜これ、何か出る?」

皿の鳴る音、重ねて数えているのか。


「きゅうま〜い..!

一枚足りない、それは...お前だぁっ!」


「きゃあっ!」「ちょ、うわ顔怖!」

二人の驚く顔を確認すると、井戸から現れた女は直ぐに言葉を続ける。


「コンビニのレジで1円足りな〜い..。

それは...お前だぁっ!」


「ひいっ!」「あるけど..!」

戦慄するカップルたち

思わずその場で足が震える。


「トランプを切ってた..!

配るよ〜ってとき、53枚しかない。

一枚足りな〜い...お前だぁっ!」


「いやあっ!」

「無くしがちだけどっ...!」

ジョーカーを抜いてやる遊びじゃないのに一枚足りない、ケースに入ってる段階でちょっと怪しかった。


「二人組組め〜!

一人だけ組めない〜...お前だぁっ!」


「きゃあっ!」「……!」

男が座り込み頭を抱えている。

「どうしたの翔太⁉︎」

「……学生の頃のオレだよ。」

「お、お前だぁっ!?」

彼の深い傷を抉ってしまった。

彼女は彼の肩を首に背負い運ぶと出口の方へ歩いていった。

「..あれ、行っちゃった?」


「お疲れ様です」

影からマユズミが現れ労をねぎらう。

「あれで良かったの?」

「はい、恐れをなして逃げ出しましたよ。少しやり過ぎたようですが」


「そうか..あれでいいんだね。」

考えてみれば初めてしっかりと人が恐怖している顔を拝んだ気がする。

「有難う、なんか嬉しいよ。」


「また用があればご用命を

次回からは有料となりますが。」


「あ、金取るんだ..。」

お前だぁっ!

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