歴史のダイナミズム

河越夜戦という、名前だけはよく知られてはいても、その詳細はとなるとあまりよくは知らない、少なくとも私はそうでした。しかし、これを読んで、まさに日本三大夜戦、三大奇襲と言わしめる、すごいダイナミックな戦いであることを知り、改めて感慨を深めます。

そのキャストの歴々たる素晴しさ、英雄あまた澎湃と沸き起こり、男たちのドラマが陸に海に展開して飽く隙を与えません。随所に歴史のダイナミズムの醍醐味が、これでもかと豊富に詰め込まれています。

この戦い、それだけを題材にして、関ヶ原に匹敵する大河ロマンに仕立て上げた筆者の力量には脱帽しかありません。しかも、それが単なる戦場ロマンチシズムに終わらず、北条氏康の祖父から連綿と続く足利御所様からの幕命というバックボーンを呈することで、まさしく四谷軒史観を成就せしめました。

作者は学生の朝読み読書に読んでもらいたいと筆を取ったと謙遜します。しかし、これは姿勢をただし、刮目して読むべき壮大な歴史スペクタルと申せます。ダイナミックな点では桶狭間を凌駕し、北条を一躍地方政権のトップランナーに仕立てた点では厳島に勝る戦いです。戦国歴史絵巻の醍醐味はまさに河越にありました。

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