第12話 輝ける魔力が逆にキモくね?
ここは駅前の飲み屋。時刻は21時。店内はいつにも増して賑やかだ。
その一席、向かい合った年頃の男女。男はなにか嬉しい事でもあったのだろう。終始顔がニヤけている。テーブルには空いたグラスが所狭しと並んでいる。
女は眉間にシワを寄せて男を眺めている。手に持ったビールは泡が引いている。ほとんど口を付けていないのだろう。
「……ヨシキ、今日はなんでそんな事になってるんだ?」
「あ、気づいた? 気付いちゃった? フッフッフッ、よくぞ聞いてくれた、聖女様!!」
「聖女様はやめろ、耳引きちぎるぞ」
聖女と呼ばれた女は、不機嫌顔で答えた。
「ハッハッハッ!! 俺とお前の仲だろう。良いではないか良いではないか!!」
「うわうぜぇ……」
ヨシキと呼ばれた男は、底抜けの陽気さで笑っている。聖女と呼ばれた女は、いつもと違う男のテンションに露骨に引いている。男はそれに気付いてもいない。
「はぁ……もぅ……。それで? 何があったんだ?」
女の眉間のシワはさらに深まっている。
「よし、俺とアカネの仲だ!! 教えてあげようではないか!!」
「はいはい。ありがとありがと。あ、店員さん。ウーロン茶1つ」
アカネは今日はもう呑む気になれなかった。
「アカネはさ、『
「ああ、ニュースで見た。確か、帰還者を増やそうとしたら、帰還者が潜ってたダンジョンごと呼び出しちゃったってやつだろ? というか、学院名は聖なのか魔なのかいまいち分からねぇな」
「そうそう。それで一応帰還者は増やせたみたいなんだけど、彼らが言うには、ダンジョンには願いを叶える女神様がいるみたいなんだ。あ、ちなみに学院名は、幾つか出た案の中でダントツの一番人気だったみたい。あそこの生徒って変わってるよね」
ヨシキはカラカラ笑っている。アカネは届いたウーロン茶を傾けた。
「続き」
「あ、うん。それである程度の実力がある暇人はこぞってダンジョンに潜ったんだ」
「ヨシキも?」
「もちろん。今日は暇だったから行ってきたよ。あ、途中で、この間の女勇者さんと婦警さん、大空リリィさんと迷子ちゃんがいてね。パーティーを組んだんだって」
「へー、変な組み合わせだな。どうやって知り合ったんだろ?」
「女勇者さんが勧誘したんだって。まあそれで、彼女らが困ってたからちょっと手助けしてね。そしたら、いつの間にか最終フロアに着いてさ。ボスを倒したら女神様が現れてね」
「……へぇ」
「とっても美人だったよ、あ、痛い痛い」
アカネの指がヨシキの右耳を捻っていた。360度回転していた。
「で?」
「女勇者さん達の願いを先に叶えてもらったよ。レディファースト」
「偉い偉い」
「でしょー」
ヨシキはアカネに褒められてニコニコだ。
「そして俺の番。まあアカネなら予想がついてると思うけど――」
「ああ」
「女神様がお吐かれになってね?」
「ああ」
「『何この魔力。キモい。キモ過ぎ。ムリムリ。おえー』って」
「ああ」
ここでヨシキはビールを一気にあおり、空になったグラスを静かにテーブルに置いた。
「まあ、慣れてるからね。気にせず言ったよ。俺の願いはそれを治してもらう事だってね」
「ふーん」
「その結果、ご覧の通り、かつての魔力になったわけですよ!! いやっほーい!! 店員さーん、ビール1つお願いしまーす!!」
ヨシキの浮かれっぷりが凄い。反対にアカネは微妙な顔だ。ため息をこぼしている。
「なぁ、浮かれてる所悪いんだけどさ?」
「ん、何?」
「魔力変化後の女勇者や大空リリィ達の反応ってどうだった?」
「えーと、何だかね、引きつった微妙な顔してたよ」
「やっぱりね」
「やっぱり?」
ヨシキは新しいビールを受け取りながら、首を傾げている。
「逆にキモい」
「…………ん?」
「急に変わり過ぎて、前までのギャップで凄くこう……絶妙に…あれだ」
「あれ」
「ああ、あれだ」
「そっかぁ、あれかぁ」
ヨシキはビールを一気にあおると、空になったグラスをテーブルに優しく置いた。グラスから手を離すと、目元を覆った。肩が震えている。
泣いていた。
「あたしは昔に見てるからまだマシだけど、他の人は結構あれだと思う」
「そのままでも……治ってもダメなんて……もう、どうしたら……」
「ゆっくり変えていけば良かったんだよ。……まあ、もう済んでしまった事だから、他の人が見慣れるのを待つしかないね」
アカネは手を伸ばし、ヨシキの肩を優し叩いた。
「ドンマイドンマイ。あ、店員さん、お会計で」
アカネは奢った。
2人は高校の時の同級生で、現在21才。
2人は異世界からの帰還者である。
昨今、数多の異世界帰り達が、さらなる変化を呼び込み、世界を変えている。
その中の1人、魔力がキモい元勇者は、再び光輝く魔力を手にしたが、キモさは何故か変わらなかった。
変わらないものがある。
相方である聖女の優しさもまた変わらないものなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます