魔力がキモいってなんだよ!?
滝の裏いと
第1話 魔力がキモいってなんだよ!?
ここは駅前の飲み屋。時刻は20時。店内は満席。楽しげな賑わいを見せていた。
その一席、向かい合った年頃の男女。男は自棄酒だろう、空いたグラスがテーブルを埋め尽くしている。右手にはもちろん新しいビールがある。
女は慣れているのだろう、男に目もくれず堂々とスマホをいじっている。
男は新しいビールを一気にあおり、空になったグラスをテーブルに叩きつけた。
「聞いてくれよ、聖女様!」
「聖女様はやめろ、ひねり潰すぞ」
聖女と呼ばれた女は、スマホの画面から視線を変えずに答えた。
「そんな事を言わないでくれ! 俺とお前の仲だろう!?」
悲痛な面持ちで、スマホを持った女の手を握る男。
「はぁ……もぅ……。それで、何を聞いて欲しいんだ、ヨシキ?」
渋々といった面持ちで話を促す女。もちろんこの時、男の手は思い切りはたき落とされている。
「おお、聞いてくれるか、アカネ! ありがとう!」
「はいはい。あ、店員さん。生ビール2つ。あと、フライドポテト1つ」
「この間さ、駅前で火事があったじゃん? あれ、『精霊自由党』の演説中のミスで火精霊が暴走したせいだったんだよ」
「ああ、あれね。家からも火柱見えたよ。もしかして、現場にいたの?」
「うん。だから、消火活動を手伝ったんだ。ほら、元勇者だし」
「立派じゃん」
ここでちょうど店員がビールとフライドポテトをを持ってきたため、受け取り、空いたグラスを渡す。今度は一気飲みせず、喉を潤すに留めた。
「でしょ? まあそれで水魔法と風魔法を使って火を消したんだよ。もちろん、火精霊を消滅させないようにも気を付けたよ?」
「優しいじゃん」
「火精霊が可愛い女の子だったんだ」
「だと思った」
「渾身の笑顔で、『大丈夫だったかい?』って手を差し出したんだ」
「このスケベ野郎。ひねり潰すぞ」
「でさ、この後が問題なんだ」
アカネはここでやっとスマホからヨシキへと視線を向けた。
「吐かれた」
「?」
「泣かれた」
「?」
「『魔力がキモい。ムリ。寄らないで』って言われた」
「あー」
ここでヨシキ再びビールを一気にあおり、空になったグラスをテーブルに叩きつけた。
「魔力がキモいってなんだよ!? 初めて言われたわ! って、アカネ! なんだその、『え? うそ? 今まで気づいてなかったの? 信じられない』的な目は!?」
「だってそうじゃん」
「だってそうじゃん!? アカネもずっと『やだ、こいつの魔力キモすぎ』って思ってたのか!?」
「いや、あたしはキモくなっていく過程を見てたから慣れてたし、そこまでは思ってないよ。……まあ、強力な魔法使う時とかは、流石にうわぁって時があったけど」
アカネがそこまで言うとヨシキはテーブルに突っ伏して肩を震わせだした。
泣いているようだ。
「なぜ……なぜ……」
「あっちで浄化魔法もかけずに魔物食べたりしてたからじゃない?」
「……それならアカネも同じだろう?」
「あたしは浄化してたし」
それを聞いてヨシキは跳ね起きた。
「なんで俺のは浄化してくれなかったんだ!?」
「いや、内緒で一回やったよ? そしたらヨシキが、なんか今日は味気ないなって言うから」
「お、俺のせい……だと……う、うぅぅ」
「マジ泣きかよ。……あ、店員さん、お会計で」
店員がレシートを持ってくるまで、アカネはヨシキの頭を撫で続けた。
「ほら、ヨシキ行くよ。これから少しずつ浄化魔法かけてやるからさ。そのうち良くなるよ」
「……うん。……ありがと」
2人は高校の時の同級生で、現在21才。
2人は異世界からの帰還者である。
昨今、数多の異世界帰り達が、正義だ悪だと世間を騒がせている。
その中の1人、魔力がキモい元勇者もまた世間を騒がせているが、その嘆きは、飲み屋の喧騒と、相方である聖女の優しさの中に消えていったのだった。
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