第6話 輝ける勇者の魔力

 ここは異世界、魔法陣の上。時刻は地球時間16時。ここも同じかは不明。魔法陣の周りには白いローブの偉そうな老人が5名。


 魔法陣の上にいるのは、呆けた顔を見せ合う若い男女。少年は時折、少女の制服のスカートから伸びる美しい脚に視線を送っている。


「成宮さん、僕の頬を抓ってもらえませんか?」


 成宮と呼ばれた勝気な雰囲気の美少女は、少年に近付き、要望通りに頬を全力で抓った。


「っ痛ぁぁああぁあ!?」


「どうだ、藤?」


「も、もう大丈夫です!!」


 成宮が指を放すと、タイミング良く、白いローブの老人が事情を説明しだした。


 曰く、魔王を倒し世界を救う勇者と聖女を召喚した。聖教会は輝ける魔力の持ち主たる2人の活躍を期待している。頑張って。との事だ。


「異世界召喚ってやつですね。成宮さん、知ってます?」


「ああ」


「あ、知ってるんですね。何か意外です。意外と漫画とか読むんですか?」


「……悪いかよ?」


「いえいえ、親近感が湧きました。こんな状況ですし、仲良くしましょう。あ、せっかくですし、下の名前で呼び合いませんか、アカネさん? ちなみに僕はヨシキです」


「何であたしの名前を知ってるんだよ、お前?」


「アカネさん、有名ですもん。暴力上等の荒々しさと凛とした佇まいを併せ持つ、スタイル最高の姐さん系美少女って…ぐぇっ!!」


「名前で呼ぶな。ぶっ飛ばすぞ、藤」


「もうぶっ飛ばされてますよ、アカネさん…ごふぅ!!」


 ヨシキはこの後も懲りずに何度もぶっ飛ばされたが、アカネが殴り疲れるまで続けた事で、名前呼びの権利を勝ち取っていた。


 もちろん、召喚者の老人達も呆れていた。



 ◇



 数カ月間、聖教会の指導の下で戦闘技術や魔法、異世界における常識等を学んだ2人は、魔王討伐の旅に出た。


 道中、魔物を倒し、ダンジョンを鎮め、実力を付けていった。最初は聖教会から旅の仲間が数人用意されたが、次第に2人の歩みに着いて来れなくなった。


 2人での旅が当たり前になった頃、アカネはヨシキを名前呼びするようになっていた。


「なあヨシキ、聖教会をどう思う?」


「急にどうしたの?」


「いいから、答えてよ」


「んー、そうだね。金にがめつ過ぎるとはいつも思っているよ。旅の始めは人助けの度に見返りを要求してたのが凄く嫌だった。今のように、美味しい食事をご馳走になる位が気持ちが良いよね」


「ヨシキらしいね」


「アカネは?」


「あたしは始めから裏があるって思ってたよ。行く先々で気になる噂ももたくさん聞いてる。中でも気になるのが、あたし達の前に召喚者がいたらしい事。そしてそれをあたし達に黙っている事」


「え、そうなの?」


「そう。しかも聖教会が出来てからの数百年で何度もね。それが事実なら、今尚魔王がいるって事が凄く気になる」


「…皆負けてきたのか、魔王は復活するのか…どちらにせよ、情報を集めて対策を考えないといけないかもね」


「ああ。頼りにしてるよ、輝ける勇者様?」


「こちらこそ頼りににしてるよ。……返り血聖女様?」

 

「その呼び方はやめろ!!」


「ぐはぁっ!!」


 2人は同級生で、現在16才。


 2人は地球からの召喚者である。


 異世界は今魔王の恐怖に脅かされている。


 輝ける魔力を持つ男は勇者として、魔物の脅威に苦しめられている人々を助けている。


 輝ける魔力を持つ女は聖女として、魔物に傷付けられた人々を癒やし、勇者と同じだけ前線で拳を振り回している。人呼んで返り血聖女。


 2人の旅は続く。救われた人々は2人の人となりに温かい気持ちを取り戻した。2人が去った後には、輝ける笑顔と、何故か血に染まった部屋が残されたという。

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