第7話 逞しい勇者の魔力

 ここは異世界、戦場。時刻は昼前。地球時間は時計が止まったから不明。周りには魔物の死体が山になっている。


 その中心。返り血に染まった若い男女。少年より少女の方がより赤く染まっている。


「アカネ、お疲れ様。そろそろお昼にしようか?」


「そうだな。あそこの鳥型の魔物にしよう」


「了解。焼鳥にしようか。塩とタレどっちにする?」


「塩。つーか、タレなんかないだろ、ヨシキ」


「ははは」


 むせ返る血の匂いが立ち込める中でも食欲がある2人。召喚されてから2年、逞しくなっていた。ヨシキと呼ばれた少年が鳥型の魔物を、手にした剣で切り刻んでいるうちに、アカネと呼ばれた少女は水魔法で返り血を洗い流し始めた。ついでに服を着替えている。ヨシキはちらちらと見ている。


「どうやら目がいらないらしいな?」


「っ!! 美味しい食事を作るので許して下さい!!」


「……片目は許してやる」


「お、お慈悲を……ぐぎゃ!! おおおぉぉおぁあ!!」


 アカネの人差し指がヨシキの左目に刺さっていた。グリグリと抉るおまけ付きだ。指の動きに合わせて震えた声が出るのが面白い。暫く楽しんだ所でアカネが指を引き抜くと、ヨシキの左目は綺麗なままだった。


「はぁはぁはぁ。滅茶苦茶痛いんだけど、治った時は前より調子が良いから、感謝の言葉が出そうになるのが困るね」


「ドMかよ。きも……」


「本気トーンはやめてよ!!」


 多くの困難を一緒にくぐり抜けた事で、2人の仲は気安いものになっていた。他人から見たら眉をひそめるようなやり取りをしているうちに、魔物の焼鳥が出来上がった。


「アカネ、はいどうぞ」


「ああ、サンキュ」


 アカネは受け取った焼鳥を浄化して食べ始めた。ヨシキはそのままかぶりついている。ヨシキの魔力もだいぶ混沌としてきたなぁと、アカネは食事の度に思っている。気付いた時には、浄化した食事が味気なく感じるようになってしまっていたようで、諦めた。男臭さというか独特な匂いも出てきたし、良く言えば逞しくなったんだと思うことにしている。


「? アカネ、おかわり?」


「……いや……なんでもない」


「そう? 必要ならすぐ作るから言ってよ?」


「ああ」


「あ、そろそろ調味料が無くなりそうなんだ。今度街に寄った時に買い出しお願いするよ」


「分かった」


 魔力の弱い者にとっては、今のヨシキの魔力はとても不快に感じるようで、近頃ヨシキは人のいる所には近付かないようになっていた。


 ヨシキの変化を見て学び、食事の浄化、魔力の洗浄を習慣にしていたアカネは、不快感のないまま魔力が成長していた。次第に買い出し等の役割はアカネが担当するようになっていた。


 一応理由があって黙っているのだが、原因を知っているアカネは、これについては一言も文句を言わない。


「……なあヨシキ。あたしが強力な結界を張ってやるから、街へは2人で行こうぜ。たまには顔を見せないと勇者が死んだって噂されちまう」


「ははは、そうだね。聖女1人でこの数の魔物を倒したって思われると、返り血聖女の伝説に新しいページが増えちゃうもんね」


「それは本気で勘弁……。頑張ろうぜ、逞しい勇者様?」


「うん。頑張ろう聖女様」

 

「聖女様はやめろ!!」


「いてっ!!」


 2人は同級生で、現在18才。


 2人は地球からの召喚者である。


 異世界は今もまだ魔王の恐怖に脅かされている。


 逞しい魔力を持つ男は勇者として、助けた人々から向けられた悪感情に、変わらぬ笑顔を浮かべる強い心を持っていた


 輝ける魔力を持つ女は聖女として、勇者の孤独を癒やし、助けとなっていたが、勇者の活躍を混同した人々に返り血聖女と言われ続けていた。


 2人の旅は続く。救われた人々は勇者から離れていったが、勇者の輝ける笑顔と血から聖女は離れられなくなっていた。

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