第9話 犯罪を犯しそうな魔力ですって
ここは懐かしい駅前。時刻は12時。懐かしい広場の時計が針を刻んでいる。たくさんの人がいる。皆一様に驚きの表情を同じ方に向けていた。
その視線の先には年頃の男女。鎧を纏った男と、綺麗な顔と豪華そうな白いローブを赤黒い斑模様で染めている女がいた。
女はまるで直前まで左手で誰かの襟を締め上げ、右手で殴っていたかのような姿勢を取り、男はまるでそれを止めようとしていたかのように、女を羽交い締めにしていた。女の右手は真っ赤だ。
「落ち着いて、アカネ!! ってあれ?」
「離せヨシキ!! んぁ?」
周りの人達と同じ表情を浮かべた2人。
「あれ? 戻ってきた? 夢かな? ぐぅええ!!」
「どうだ痛いか?」
「凄く痛い!! 夢じゃないよ!! やった!!」
「そうか。夢じゃないのか。――やっと……良かった……」
ヨシキと呼ばれた男は、盛大に腫れた左頬のせいで気持ち悪く歪んだ笑みを浮かべ喜んでいる。一方アカネと呼ばれた女は左手で目を覆ってしまった。
「あれ? もしかして……泣いてるのアカネ? え、マジ? ……初めて見た……」
「……うるせぇ……あたしはなぁ……あんたをこうして、帰してやりたかったんだよぉ……うぅ……」
「アカネ……マジ聖女ぶぐほぁあ!!」
「聖女様はやめろ、ぶっ潰すぞ」
「はひ、ほめんなはひ」
聖女と呼ばれた女の右手が男の鼻を潰した。
「はぁ。もう少し感傷に浸らせろよな、まったく。……あの、そこのお兄さん、今日って何年何月何日か教えて頂けませんか?」
さっきまでの、恐ろしいまでの険のある表情ぎ幻だったかのように、深い聖女の慈愛に満ちた表情を浮かべ、近くにいたサラリーマンの男性に問いかけたアカネ。右手は真っ赤のままだ。
「えっと、20XX年10月14日ですよ」
「ありがとうございます。……あっちとほとんど同じ日数が進んでいたみたいだな、ヨシキ。あたしら、確実に行方不明扱いだろうな」
「そうだね。約4年かぁ。きっと皆心配したよねぇ」
揃って、それはもう深いため息をついた2人。
「あの、もしかして異世界からの帰還ですか?」
さっきのサラリーマンがそう尋ねてきた。2人は顔を見合わせて、首を傾げた。ヨシキはサラリーマンに体を向け、質問に答えた。
「そう、なんですけど、えーと……信じます?」
「あ、やっぱり。ここ数年で異世界召喚と帰還が急増したんですよ。知らないって事は、その前か増え始めた初期に召喚されたんですね。おかえりなさい。長い間大変でしたね。専用窓口も出来たので、交番で説明すれば対応してくれますよ」
「あ、ありがとうございます。行ってみます。……日本がそんな事になっていたなんてなぁ。――アカネ、とりあえず交番行こっか」
「ああ、分かった。……お兄さん、ご親切にありがとうございました」
2人は深々と頭を下げ、交番に向かった。
◇
「……」
「……」
「……えっと、婦警さん? 何故僕は手錠を掛けられたのでしょう?」
「黙りなさい!! 可愛い女の子をこんなに血塗れにして!! この変態!! DV男!!」
「誤解ですよ!! この女性は僕の友達です!! な、アカネ? そうだろ?」
「……」
「何で黙るのさ!?」
「静かにしなさい!! あなたのその犯罪を犯しそうな魔力が証拠よ!! 女性の敵!!」
「そんな理由で逮捕なの!? うっそだぁ!? 助けてアカネぇ!!」
「………………ふんっ、バカヨシキめ。――これからもよろしくな」
2人は高校の時の同級生で、現在20才。
2人は異世界からの帰還者である。
昨今、数多の異世界召喚者が、念願の帰還を果たし、喜びに涙を流している。
その中の1人、犯罪を犯しそうな魔力を持つように見える元勇者は、相方である聖女の拒絶に、絶望の涙を流す。勇者の帰還に尽力し、心から喜びの涙を流した聖女は、勇者の一言に不満を覚えながらも、これからも共にいる事を静かに誓った。
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