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野間田部長は面食らっていたがとりあえず素直に辞職を受け入れてくれた。
なんと明日から有給消化期間にしてくれるというではないか。なかなかいい会社に入っていたのだな、と思っていたところ部長が溜息をつきながら男にただ一つ質問を投げかけた。
『退職して、他にあてはあるのかい?』
男はぼんやりしながら
『そうですね、ひっそりと小説家にでもなりましょうか。』
と答えた。昨日観た映画の『シークレットウィンドウ』の影響か、小説家というワードがついて出た。
部長は男が冗談を言ったと勘違いをしたようで、君が冗談を言うとは、と大きく笑っていた。確かに話を早く終わらせたかったが故に放った適当な一言だったがそこまで笑うか、と男は少しムッとした。
昔から男自身、本をよく読むし語彙もなかなかのものだと自負していたのだが。
とりあえずその日の業務を終わらせると、彼がすることはひとつであった。
ーーーーーーーーーーーーーー、10コールほどして漸く、刑事は電話に出た。
『あー、どなた』相変わらずの横柄な態度だったが男は気にせず、話をした。
手配中の彼に見覚えがあり、当時のクラスの緊急連絡網の書類を偶然捨てずに残していたので恐らく彼の実家にコンタクトが取れること、簡潔に要件を伝え終わると刑事は突然態度を変え、饒舌になった。
突然感謝の意を長々と伝えられ、当時の緊急連絡網が残っているかをすぐに確かめるようにつたえられた。残っていることを伝えるとすぐにでも会いたいとのことであったがその言葉には犯人を捕まえたいとか、人の安全を守りたいいうものではなく、自らの評価のためだというのがありありと出ていた。恐らく生来の気性で得た立場と家庭なのであろう。見てくれだけを気にする刑事にはほとほと嫌気がさした。
『では、30分後に。』男の家まで刑事自らが足を運んでくれるのだそうだ。
男は驚いた。刑事のその行いにでは無く、勿論、哀れな逃亡犯にでもない。それは、今の自分の感情にだ。
きっとそれは確かに愉悦だった。
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