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男は家に帰っても変わらない。ソファにぐったりとしてリラックスするだとか、好きなドラマを見るだとかそんな事はしない。ただ、なんの番組でもいいからテレビをつけて水を1杯飲んだ後に、煙草のついでに買ったコンビニの弁当を温めずに食べる。味などはとうにどうでもよく、養分を体内に取り込む、という作業のみを行う。『植物みたいだ。』という元恋人の別れ際の一言が頭を過ぎったが、なんの反論もなければ、意見もないので、箸は止めない。テレビを付けたのはなんとなく、『家みたいだから』という男なりの食事の際の演出であった。食後は必ずジャズを聴きながら、洗濯機を回す。
心地が良くて鼻歌を歌う。普段の男しか知らない会社の人間がみたらきっと椅子ごと転げ落ちるような瞬間である。男もそうだと分かっている。『きっとこれがオフというやつかな。』とまたも自嘲する。その後寝るまでに少し時間があったので映画でも見ようと、DVDに手を伸ばす。男は普段から小さいテレビの音量を少しだけ上げて『シークレットウィンドウ』を瞬きもせぬほどじっくりと目と耳で味わい、床についた。穏やかで、静かな一日の終わりだ。ただ特筆する点としては、これが既に毎日、それはもう数え切れないほどの日数重ねられている事だ。そりゃあ目くらい曇るか。と、呟いてみた。
彼の孤独は揺るがぬ物であろうとしていた。時折、寂しさのようなものを感じ、仲間が1人だけでも欲しくはなるが、元来の世を疎む性分がその思いをすぐに推しと止めに測っていた。
『友』というような存在がなかった訳では無い。幼少期から高校時代にかけて、人並みに友人はいた。懐かしさすら感じるがいつからか人と距離を起き、いや、置かれたのか?ともかく孤独となった。恋人を愛してはいたが、恋慕の感情から友愛に、そしてただの情になりさがった。よくある話が故に気にも止めていない男である。
そういえばこうなるまでは割と絵に書いた人生だったような気がする。それを思えば些少の後悔の念も。いや、無駄な思案は自分らしくないのでやめる。今日も目を閉じる。5分もすれば意識は明日の朝に飛んでいくだろうと、たかを括って。
ただ、しかし、友や恋人ではなく彼は彼と同じ色の人間を欲していた。その渇望は彼に否定できなかった。故に一抹ばかりの苛立ちが残っていたような気もしたが、気に留めないことにした。今更どうにもならないことは労力を使うし、なにより自分らしくないと男は思った。
飛び跳ねるようにして男は起き上がった。普段なら必ず聞こえるはずのない音が聴こえたからだ。時刻は23時40分、隣人はいない環境でまさかこの時間に家のチャイムがなるとはさすがの男も驚いた。が、『どうせ常識の無い人間の引越しの挨拶とか、部屋を間違えたとかだろう』と、大方の予想をして何故かすぐに胸を撫で下ろした。その安心感故に覗き窓を覗くことも忘れ、不用心にも玄関を開けてしまっていた。
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