人と妖の狭間に生まれて——『妖雛』の少女は心に灯火を得られるか

  • ★★★ Excellent!!!

物の怪の蔓延る世に、人を護るため生み出された妖雛。
彼らは長じれば人妖となり、道具としてただ物の怪を倒すことを求められる。
夜蝶の志乃こと花居志乃もまた、そのような生を歩むはずだったが……数々の出逢い、経験、想いが彼女の心を育んでいく。

腰を据えて読める、本格派和風ファンタジーです。
特に優れているのが、人でもなければ妖怪でもない主人公・志乃の難しい心情を、逃げることなく丁寧に描かれている点です。
我々人間とは違った感性の彼女が、物事をどう捉えて何を思うかは、想像で補うのもなかなか難しいことだと思いますが、こちらの作品ではその全てが説得力があると言いますか、納得できる形で描き出されています。
少しずつ、でも着実に人の心に寄り添おうとしていく志乃。いつの間にか、彼女を応援したくて堪らなくなっている自分に気づかされます。

そして彼女を取り巻く人物たちも、皆魅力的で。
特に同年代の妖雛である芳親、そして治療術の使い手である茉白——志乃にとって初めての友達となる二人とのやり取りは必見です。

丁寧な筆致で描かれる、濃密な和風ファンタジー。
描かれた世界を心ごと旅できる素敵なお話で、大変お勧めできる一作です。

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