旅、巡る季節、飛び立つ一羽の凍蝶。

今、一羽の蝶が、その羽根を広げ飛び立った。

その旅は果てしなく、温かく、希望に満ちている。しかし陽光が木々の隙間から差し込む度、少女の結えた黒髪が揺れる度、その影は色濃く、どこまでも深い色を湛える。影は消えることなく、どこまでも彼女についてまわる。感じる畏怖の感情。そして、空っぽな自分の心。影は楽しいそうに揺れる。いっそ深い夜に呑まれてしまえば、と、そう思案する。その心に映る、一筋の炎。例え今は、その光が仄かなものであったとしても。旅を続け人々に触れ、灯された炎は幾重にも重なり、美しい銀朱を生み出す。

これは、一人の妖が、人の温もりを知る物語。

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