第7話 ~描かれた満月、そは始まりを思わせ~呪術師ギルド

 至って普通の門構え。

 至って普通の石造建築。


 それが呪術師ギルドの第一印象だった。


 呪術師ギルドというから、もっと物々しいというか、禍々しい建物をイメージしていたサリュナだったが、あまりにも普通すぎる外観に逆に戸惑う。


 ある意味、ギルドの在処が都市伝説化したのはこの分かりにくさも一端を担っているのかもしれない。


 さらに入口の扉は意外にも開け放たれ、うっかり観光客が迷い込んでもおかしくなさそうだ。


「なんだか緊張するわ……」


 サリュナは少し体を強ばらせた様子。そんな彼女を労るように、トーヴァンは声をかける。


「いよいよだね。さあ、入ろう。」


 2人は意を決して建物の中に足を踏み入れた。


 小綺麗な入口通路の突き当りに、至って普通の受付があり、左右にこれまた小綺麗な廊下が続いている。改めて建物を間違えたのではないか、という感覚にとらわれるも、一応受付で確認する。


「失礼します、ここは呪術師ギルドで合っていますか?」

「左様でございます。」

 トーヴァンの問いに受付の女性が淡々と答える。


「本日のご要件は?」

「ええと、その…こちらの女性に呪術の類がかかっているのか、かかっているならば解呪をお願いしたいのですが。」

「かしこまりました。呪術の痕跡の鑑定と解呪でございますね。こちらに対象者のお名前と症状、発症時期などいくつかの問診がございますので御記入になりお待ちください。料金に関しましてはまず鑑定料がこれだけ、先払いでかかります。その後、解呪のお見積もりをさせていただきます。」

 そう言って受付嬢は問診票と一緒に満月のイラストが入ったカードと鑑定料の書かれた紙を提示した。


 鑑定料自体はさほど高くない。ただ、問題は解呪の料金だ。万が一法外な値段を提示されたら…相場が分からないだけに対策がしにくい。半ばヒヤヒヤしながら鑑定料を支払い、順番を待つ。


 不安を募らせながら待つこと数分。


「満月のカードでお待ちのお客様、お待たせ致しました。」


 受付から左に延びた通路の奥の小部屋から、鑑定係と思しき女性の声が聞こえた。


 それが自分たちのことであると気づくのに一瞬を要したが、


「満月のカードのお客様~」


 再度呼ばれるまでの間に例の受付時に渡されたイラスト入カードを思い出し、慌てて声のした部屋に向かう。


 ――満月…

 あの日も綺麗な満月だった。

 恐ろしいほど綺麗な――


 ◇◇◇◇


 その部屋はこざっぱりしており、やはりおおよそ呪術に関係あるようには見えなかった。

「なんだか病院みたい」

 鑑定士と思しき女性の前に座らされて、ふと零れた本音。

「そうですね、当ギルドのお客様は様々な症状をお持ちですし、解呪を治療と思えば、似たようなものかもしれません」

 鑑定士はサリュナを気遣い優しく微笑む。


「付き添いの方は外でお待ちください。すぐ済みますので。」


 トーヴァンが部屋を後にすると、急に心細くなってきた。


「大丈夫ですよ、安心してください。あなたを攻撃する人はここにはいませんから」


 そう言うと、鑑定士はおもむろに水晶球オーブを取り出した。


「では鑑定を始めます。こちらの水晶球に意識を集中してください」


 言われるがまま水晶球を見詰める。


 鑑定士の厳かな詠唱が響き渡ると、水晶球の色が徐々に変わり始め……


 ――!


 次第に禍々しい赤色になったかと思うと、


 音も立てず粉々になってしまった。



「?!」


 鑑定士が血相を変える。


「これは…!! 少々お待ちください。」


 そう言って鑑定士は部屋を出ていき…


 程なくして戻ってきて、こう言った。


「鑑定の結果、貴女はギルドマスター預かりとなります。別室にてギルドマスターが直接お話を伺いますので、こちらへどうぞ。ご本人様がよろしければ付き添いの方もご一緒に。」


 何やら不穏な気配を感じつつ、サリュナはトーヴァンを呼び、鑑定士に着いていくことにしたのだった。

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